
近年、脱炭素社会への移行やSDGsへの関心の高まりを背景に、「木造非住宅」市場が急速な拡大を見せています 。
これまで鉄骨造やRC造が主流だったオフィス、店舗、福祉施設といった非住宅建築分野で、木造化・木質化という新たな潮流が生まれ、建材メーカーや工務店、建設会社の皆様にとっても大きなビジネスチャンスとなっています。
しかし、このチャンスを掴む上で、多くの建築実務者が共通の課題に直面しています。
それは、「木造非住宅の設計・施工に関する専門知識の不足」です 。
特に、プロジェクトの根幹を担う設計事務所の選定は、その成否を左右する最も重要なステップと言っても過言ではありません。
木造住宅の設計とは全く異なる、構造計画、防耐火設計、コスト管理など、非住宅特有の高度な専門性が求められるからです。
安易に設計事務所を選んでしまうと、
「コストが想定を大幅に超えた」
「法規制をクリアできず計画が頓挫した」
といった失敗に繋がりかねません。
この記事では、木造非住宅という新たな挑戦を成功に導くため、信頼できる設計事務所をいかにして見極め、良好なパートナーシップを築いていくか、その「失敗しない選び方」を具体的かつ体系的に解説します。

なぜ今、木造非住宅で設計事務所選びが重要なのか?

木造非住宅プロジェクトへの参入を検討する際、なぜこれほどまでに「設計事務所選び」が重要視されるのでしょうか。
それは、現在の市場が大きな可能性を秘めている一方で、専門知識を持つプレイヤーが非常に限られているという特殊な状況にあるからです 。
法改正や環境意識の高まりが追い風となり、木造化の需要は着実に増加しています 。
しかし、その需要に対して、特に中大規模の木造非住宅を扱える設計者の数は圧倒的に不足しているのが実情です。
この「需要と供給のギャップ」こそが、プロジェクトの最大のリスクとなります。
本章では、木造非住宅を取り巻く現状を正しく理解し、設計事務所選びが事業の成否を分ける戦略的な一手である理由を深掘りします。

急増する木造化・木質化の潮流とビジネスチャンス
現在、建築業界では「ウッド・チェンジ」とも呼ばれる大きな変革が起きています 。
その背景には、いくつかの強力な推進力があります。
一つは、世界的な環境意識の高まりです。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けた動きの中で、木材は炭素を貯蔵する「第二の森林」として、また製造時のCO2排出量が少ないサステナブルな建材として再評価されています 。
この流れは、企業の社会的責任やESG投資の観点からも無視できません。
木造の社屋や店舗は、環境配慮の姿勢を具体的に示す強力なブランディングツールとなり得ます 。
二つ目に、法的な後押しです。
2010年の「公共建築物等木材利用促進法」が2021年に改正され、対象が民間建築物にも拡大されたことで、国を挙げて木材利用を促進する体制が整いました 。
さらに、技術革新も進んでいます。
CLT(直交集成板)などの新しい木質建材の登場や、耐火技術の進歩により、かつては木造では難しいとされた中高層の建物や大スパンの空間も実現可能になりました 。
これらの要因が組み合わさり、木造非住宅は今、大きな成長市場となっているのです。

「建築のプロ≠木造のプロ」という業界の課題
多くの工務店や建設会社、設計事務所は、長年にわたり建築のプロフェッショナルとして活躍されています。
しかし、その経験が必ずしも木造非住宅の分野で通用するとは限りません。
なぜなら、「住宅の木造」と「非住宅の木造」では、求められる知識や技術が根本的に異なるからです 。
構造設計においては、住宅で一般的な壁量計算のような簡易的な手法は、大規模な非住宅建築では通用せず、許容応力度計算や立体解析といった高度な構造計算が必須となります 。
また、柱や梁をつなぐ接合部の設計は規格化されたものが少なく、プロジェクトごとに最適なディテールを考案する能力が求められます 。
さらに、都市部で特に重要となるのが防耐火設計です。
厳しい法規制をクリアするためには、最新の大臣認定工法などに関する深い知識が不可欠であり、この分野の専門家は非常に限られています 。
このように、木造非住宅は極めて専門性の高い領域であり、「建築のプロ」であっても、誰もが容易に参入できるわけではないのです。
この専門知識のギャップを理解することが、パートナー選びの第一歩となります。
パートナー選びがプロジェクトの成否を分ける理由
木造非住宅プロジェクトにおいて、設計事務所は単に図面を描く存在ではありません。
プロジェクト全体の方向性を定め、コスト、品質、スケジュールをコントロールする司令塔の役割を担います。
特に、プロジェクトの初期段階で行われる設計上の判断は、後工程に絶大な影響を及ぼします。
例えば、構造計画一つで、使用できる木材の種類や量が決まり、それが躯体工事費、ひいては総工費を大きく左右します 。
一度決まった構造計画を後から変更するのは容易ではなく、初期段階での的確な判断がコスト管理の鍵を握るのです。
また、木造非住宅は、設計者、構造設計者、材料を供給する木材メーカー、加工を行うプレカット工場、そして現場で建てる施工者といった、多くの専門家の連携が不可欠です 。
これらの専門家たちの間に存在する知識の断絶を繋ぎ、プロジェクトを円滑に進行させる「木造建築コーディネーター」的な役割も、優れた設計事務所は担っています 。
つまり、設計事務所を選ぶということは、その事務所が持つ知識や経験だけでなく、彼らが率いる専門家チーム全体の能力を選ぶことと同義なのです。
【ステップ1】候補となる設計事務所の見つけ方

信頼できる設計事務所と出会うためには、まず質の高い候補者リストを作成することが重要です。
しかし、木造非住宅の経験を持つ事務所はまだ少ないため、どこから探し始めればよいか分からないという方も多いでしょう。
闇雲にインターネットで検索するだけでは、本当に実力のある事務所を見つけ出すのは困難です。
そこで重要になるのが、信頼性の高い情報源を効率的に活用することです。
本章では、有力な候補となる設計事務所を発掘するための具体的な方法を3つのアプローチからご紹介します。
公的なデータベースから、業界内で評価の高い事例、そして専門家が集うプラットフォームまで、多角的な視点で候補者探しのヒントを提供します。

公的機関や業界団体のデータベースを活用する
木造非住宅の設計事務所を探す上で、最も信頼性が高く、出発点として最適なのが、公的機関や業界団体が提供する情報です。
特に、国土交通省の補助事業として整備されている「中大規模木造建築ポータルサイト」は必見です 。
このサイトには、木造建築に関する最新の技術情報や設計事例、講習会の案内などが集約されており、この分野に積極的に取り組んでいる専門家や企業を見つけるための貴重な情報源となります。
また、一般社団法人日本木造住宅産業協会(木住協)のような業界団体も重要な情報源です。
木住協は、木造の耐火構造に関する国土交通大臣認定工法の開発や講習会を積極的に行っており、その会員企業や講習会に参加している設計事務所は、この分野への高い意欲と専門知識を持っている可能性が高いと言えます 。
これらの公的な情報源は、宣伝目的の広告とは一線を画し、客観的な情報に基づいて候補を絞り込むことができるため、最初のスクリーニングとして非常に有効です。
まずはこうした信頼できるデータベースを活用し、情報収集の基盤を固めましょう。
建築賞や専門誌から最先端の事例を探る
業界内で高く評価されている建築物から設計事務所を探すのも、非常に有効なアプローチです。
建築賞の受賞歴は、デザイン性だけでなく、技術力や革新性が専門家によって客観的に評価された証と言えます。
「ウッドデザイン賞」は、木材利用の幅広い分野を対象としており、過去の受賞作品データベースを調べることで、有明体操競技場のような大規模プロジェクトを手掛けた著名な設計事務所を知ることができます 。
また、「木の建築賞」や「木材活用コンクール」なども、地域性や技術的な工夫に富んだ優れた事例と、それを手掛けた設計者を発掘するのに役立ちます 。
さらに、業界の動向を掴むためには、建築専門誌が定期的に組む木造特集も欠かせません 。
これらの特集記事では、今まさに業界をリードしている設計事務所や、最新の技術トレンドが紹介されており、未来のパートナー候補を見つける絶好の機会となります。
優れた実例から逆引きすることで、自社のプロジェクトに合ったビジョンや技術力を持つ設計事務所を効率的にリストアップすることが可能です。
オンラインプラットフォームや紹介で探す際の注意点
近年では、建築家や設計事務所を紹介するオンラインプラットフォームも増えており、手軽に情報を集める手段として活用できます。
また、日頃から付き合いのある建材メーカーや取引先からの紹介も、信頼できるパートナーを見つけるための有力なルートの一つです。
しかし、これらの方法で候補を見つける際には注意が必要です。
プラットフォームに掲載されている情報や、紹介者の言葉を鵜呑みにせず、必ず自社の目で客観的に評価するプロセスを挟むことが重要です。
特に紹介の場合は、紹介者との関係性から断りづらいという心理が働くこともありますが、プロジェクトの成功を最優先に考え、冷静な判断を心がけるべきです。
紹介はあくまで候補者と出会う「きっかけ」と捉え、次のステップで解説するポートフォリオの確認や面談を通じて、その実力を多角的に見極める姿勢を忘れないようにしましょう。
【ステップ2】実績とポートフォリオの見極め方

候補となる設計事務所をいくつかリストアップしたら、次はその実力を客観的に見極める段階に入ります。
各事務所が公開しているウェブサイトやポートフォリオ(作品集)は、その能力を判断するための重要な情報源です。
しかし、美しい完成写真やデザイン性の高さだけに目を奪われてはいけません。
本当に見るべきは、そのデザインを実現した背景にある技術力、コスト管理能力、そしてプロジェクトを円滑に進めるための体制です。
本章では、ポートフォリオを単なる作品集としてではなく、事務所の総合力を分析するための「評価ツール」として活用する方法を解説します。
具体的なチェックポイントを知ることで、見た目の印象に惑わされず、真に信頼できるパートナーを見抜く目を養いましょう。

最低限チェックすべき「非住宅×木造」の実績
設計事務所の実績を評価する上で、まず大前提となるフィルターが「非住宅分野における木造建築の実績」の有無です 。
これは最も重要な必須条件と言えます。
なぜなら、前述の通り、住宅設計の経験は非住宅分野の専門性を代替するものではないからです。
構造計算の複雑さ、求められる防耐火性能、そして特有の法規制など、非住宅には住宅とは全く異なる知識と経験が求められます。
また、「計画実績」や「コンペ案」だけでは不十分で、実際に「竣工」まで導いた実績があるかどうかが重要です。
計画から竣工に至るまでには、予算管理、行政協議、施工者との調整など、数多くのハードルが存在します。
これらの課題を乗り越え、建物を完成させた経験こそが、プロジェクト遂行能力の何よりの証明となるのです。
さらに、自社が計画している建物の用途(例えば、福祉施設や店舗など)での設計経験があるかどうかも確認しましょう 。
特定の用途に関する深い理解は、機能的で使いやすく、かつコスト効率の高い設計に繋がります。
まずはこの必須条件をクリアしている事務所に絞り込むことが、効率的な選定プロセスの第一歩です。
ポートフォリオで確認すべき4つの重要ポイント
竣工実績を確認したら、次にポートフォリオの内容をより深く分析していきます。
以下の4つのポイントに注目することで、事務所の総合力を評価することができます 。
- 技術力(安全性): デザインの根幹を支える技術力は最も重要です。特に、非住宅木造特有の課題である「構造」と「防耐火」への取り組み方に注目しましょう。大スパンの空間をどのような構造システムで実現しているか、耐火建築物としてどのような仕様を採用しているか、といった具体的な記述があるかを確認します 。
- コスト管理(経済性): 「木造=安い」という単純な図式は成り立ちません 。プロジェクトの紹介文に、予算内で目標を達成するための工夫や、一般流通材の活用、バリューエンジニアリング(VE)によるコスト削減への言及があるかを探します。コスト意識を持って設計に取り組む姿勢が見えるかがポイントです。
- デザイン性(資産性): 木の特性を活かした魅力的なデザイン力も重要です。単に木を使っているだけでなく、その温もりや素材感を空間の価値向上に繋げられているか、また、長期的なメンテナンス性まで考慮された設計になっているかを確認します 。
- プロジェクト体制: 優れた建築はチームでつくられます。プロジェクトの紹介ページで、意匠設計者だけでなく、協働した構造設計事務所や施工会社、木材コーディネーターなどがきちんとクレジットされているかを確認しましょう。これは、チームワークを重視し、各専門家へのリスペクトがある事務所であることの証です。
構造設計や防耐火設計への対応力を読み解くコツ
ポートフォリオから専門的な技術力を読み解くには、いくつかのコツがあります。
まず、構造設計については、どのような構造材(大断面集成材、CLTなど)を使用しているかに注目します 。
特に、柱の少ない大空間を実現している事例があれば、それは高度な構造計画力がある証拠です。
構造コンセプトに関する明確な説明や、協働した構造設計事務所名が記載されていれば、さらに信頼性が高まります。
次に、防耐火設計です。
これは都市部の非住宅木造における最大の難関の一つです。
プロジェクトの概要欄に「1時間耐火構造」「準耐火建築物」といった具体的な性能が明記されているかを確認しましょう 。
さらに、「大臣認定工法を使用」「燃えしろ設計を採用」といった記述があれば、告示仕様だけではない、より高度な設計に対応できる技術力を持っていると判断できます 。
逆に、これらの技術的な記述が乏しく、デザイン面の美しい写真や抽象的なコンセプトばかりが並んでいる場合は、専門的な課題への対応力に疑問符がつくかもしれません。
デザインの裏側にある技術的な根拠を探る視点が、実力のある事務所を見抜く鍵となります。
【ステップ3】面談で確認すべき必須質問リスト

書類選考を通過した設計事務所とは、次に対面での面談を行います。
この面談は、ポートフォリオだけでは分からない事務所の思想や担当者の人柄、そして何よりコミュニケーション能力と問題解決能力を見極めるための決定的な機会です。
相手方のプレゼンテーションを一方的に聞くだけで終わらせてはいけません。
自社のプロジェクトに対する深い理解と熱意を引き出し、真のパートナーとなり得るかを探るための「対話」の場とすることが重要です。
本章では、面談を成功に導くための具体的な質問リストを、「理念」「技術力」「体制」の3つのカテゴリーに分けてご紹介します。
鋭い質問を投げかけることで、設計事務所の真価を浮き彫りにしましょう。

理念とアプローチ:プロジェクトへの姿勢を問う質問
技術的な話に入る前に、まずはその事務所がどのような哲学を持って建築と向き合っているのかを確認しましょう。
プロジェクトへの姿勢や価値観が自社と合致しているかは、長期的なパートナーシップを築く上で非常に重要です。
- 「貴社が木造非住宅を手掛ける理由や、その魅力は何だとお考えですか?」 この質問で、単なるビジネスとして捉えているのか、木材や木造建築への深い理解と情熱があるのかが分かります。環境性能、デザイン性、構造的合理性など、何を重視しているかを聞き出すことで、その事務所の設計思想が見えてきます 。
- 「過去のプロジェクトで、最もこだわった点、あるいは最も苦労した点は何ですか?」 成功談だけでなく、苦労した話を聞くことで、問題に直面した際の対応力や誠実さを垣間見ることができます。どのように課題を乗り越えたのか、具体的なエピソードを引き出すことが重要です。
- 「私たちのプロジェクトの目的やビジョンをどのように捉え、建築で実現できるとお考えですか?」 自社の事業や想いへの理解度を測る質問です。事前に提示した情報に基づき、どれだけ深く考察し、独自の提案を考えてくれているか。その熱意と洞察力が、プロジェクトへの貢献度を左右します。
技術力と実績:構造・防耐火に関する具体的な質問
理念や熱意を確認したら、次はプロジェクトを具体的に実現するための技術力について、踏み込んだ質問をします。
ここでは、一般論ではなく、自社のプロジェクトを想定した具体的な問いかけが有効です 。
- 「ポートフォリオにある〇〇プロジェクトについて、構造計画のポイントと、協働した構造設計事務所を教えてください。」 特定のプロジェクトを挙げることで、より具体的な回答を引き出します。構造設計事務所名を即答でき、そのパートナーとの協業プロセスを明確に説明できるかは、チームとしての実力を示す重要な指標です 。
- 「当社の計画地は準防火地域で、耐火性能が求められます。コストを抑えつつ木材の魅力を活かすために、どのような防耐火手法が考えられますか?」 木住協の大臣認定工法や、木材を現しにする場合と被覆する場合のメリット・デメリットなど、具体的な選択肢を提示できるかを確認します 。法規を守るのは当然として、その上でどのような付加価値を提案できるかが、専門性の高さを表します。
- 「木造非住宅のコストについて、鉄骨造と比較した場合のメリット・デメリットと、コスト管理で最も重要視すべき点は何だとお考えですか?」 コスト構造への深い理解があるかを問う質問です。木材価格の変動や特殊な加工費といった具体的なリスクを指摘し、それに対する軽減策を提案できるかが、予算内でプロジェクトを遂行する能力を見極めるポイントです 。
プロジェクト体制:チームと連携に関する質問
優れた設計事務所は、強力な専門家ネットワークを持っています。設計事務所単体の能力だけでなく、プロジェクトチーム全体としての総合力を確認することが不可欠です。
- 「構造設計者や材料供給者、プレカット工場とは、設計プロセスのどの段階で、どのように連携を取りますか?」 設計の初期段階から各専門家と密に連携し、手戻りのない効率的なプロセスを構築できているかを確認します 。設計が完了してから各所に「投げる」ような分断されたアプローチでは、トラブルの原因となりがちです。
- 「このプロジェクトに最適な構造設計者や木材コーディネーターは、具体的にどなた(どの会社)を想定していますか?その方々との協業実績はありますか?」 木造非住宅の実績が豊富な、信頼できるパートナーの具体的な名前が挙がるかが重要です。優れた事務所は、プロジェクトの特性に応じて最適なチームを編成する能力を持っています 。
- 「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)をどのように活用していますか?意匠・構造・設備の干渉チェックなどで活用した実例があれば教えてください。」 BIMは単なる3Dパース作成ツールではありません。設計の精度向上や関係者間の合意形成、手戻り防止に大きく貢献します 。BIMをプロジェクト管理ツールとして有効活用できているかは、その事務所の先進性や効率性を測る指標となります。
【ステップ4】良好なパートナーシップを築く契約と協業のコツ

実力と熱意を兼ね備えた、理想的な設計事務所を見つけ出せたとします。
しかし、それで安心するのはまだ早いでしょう。
プロジェクトの成功は、選定後のパートナーシップの質にかかっています。
どんなに優れたパートナーでも、円滑な協力関係が築けなければ、その能力を最大限に発揮することはできません。
その協力関係の土台となるのが、双方の役割と責任を明確にする「契約」であり、日々のプロジェクト進行を支える「コミュニケーション」です。
本章では、選んだパートナーと強固な信頼関係を築き、プロジェクトを成功へと導くための契約と協業のコツについて解説します。

業務委託契約書で確認すべき重要項目
設計事務所との間で締結する「建築設計・監理業務委託契約書」は、単なる事務手続きではありません。
これは、プロジェクトにおける双方の権利と義務を定め、万が一のトラブルから身を守るための最も重要なリスク管理ツールです 。
契約内容を曖昧にしたまま進めることは絶対に避けるべきです。
契約書を確認する際は、特に以下の項目に注意しましょう。
- 業務の範囲: 「設計」と一口に言っても、基本設計から実施設計、各種申請業務まで多岐にわたります。どこからどこまでが契約の範囲なのか、成果物として何が提出されるのかを明確に定義します。特に、設計変更への対応範囲や追加費用の発生条件は、後のトラブルを防ぐために重要です 。
- 設計・監理料: 報酬の算定根拠(総工事費に対する料率、固定額など)と、支払い時期・条件を具体的に確認します 。
- 著作権の帰属: 設計された建築物の著作権が誰に帰属するのか、また、発注者としてその設計をどのように利用できるのか(改修や増築時など)を明確にしておきます 。
- 再委託の条件: 構造設計や設備設計など、業務の一部を外部の専門家に再委託する場合のルールを確認します。発注者の事前承諾が必要かどうかなど、プロジェクトチームの透明性を確保するための重要な項目です 。
トラブルを未然に防ぐコミュニケーション術
良好なパートナーシップは、日々の円滑なコミュニケーションによって育まれます。
プロジェクト開始時に、コミュニケーションの基本ルールを双方で合意しておくことが、後の誤解や対立を防ぐ鍵となります 。
まず、定例会議の頻度や参加者、議題の共有方法などを決めましょう。
議事録を作成し、決定事項や懸案事項を毎回書面で共有する習慣をつけることで、「言った・言わない」のトラブルを回避できます 。
また、メールやチャットツール、Web会議システムなど、プロジェクトに適した情報共有ツールを導入することも有効です 。
特に重要なのは、設計変更や仕様変更が発生した際の対応です。
どんなに小さな変更であっても、コストやスケジュールに与える影響をその都度書面で確認し、双方合意の上で進めるプロセスを徹底しましょう 。
こうした地道なコミュニケーションの積み重ねが、相互の信頼関係を醸成し、プロジェクトをスムーズに前進させる原動力となります。
プロジェクトを成功に導くための発注者側の心構え
プロジェクトの成功は、設計事務所の能力だけで決まるものではありません。
発注者(施主)側の関わり方も、その質を大きく左右します。
設計事務所に「丸投げ」するのではなく、プロジェクトの主体的な一員として積極的に関与する姿勢が求められます 。
まず最も重要なのは、プロジェクトの初期段階で、建物の目的や要望、予算といった要件をできる限り明確に、かつ具体的に伝えることです。
曖昧な要望は、設計の手戻りや後の仕様変更に繋がり、コスト増や工期遅延の原因となります。
次に、設計事務所からの提案や確認事項に対して、迅速に意思決定を行うことも重要です。
発注者側の判断が遅れると、プロジェクト全体のスケジュールに影響が及びます。
もちろん、専門的な判断は設計事務所を信頼し、尊重する姿勢が基本です。
しかし、任せきりにするのではなく、分からないことは積極的に質問し、納得した上で次に進むことが大切です。
発注者と設計者が、互いの役割と責任を理解し、リスペクトし合う関係を築くこと。
それこそが、プロジェクトを成功に導く最高のパートナーシップの形と言えるでしょう。
まとめ
木造非住宅プロジェクトの成功は、適切な設計パートナーの選定に懸かっていると言っても過言ではありません。
本記事では、そのための具体的なステップとして、信頼できる候補者の見つけ方から、実績の見極め方、面談での質問術、そして良好なパートナーシップを築くための契約と協業のコツまでを解説してきました。
重要なポイントを改めて整理します。
第一に、現在の市場は需要に対して専門家が不足しているため、厳格な基準でパートナーを見極める必要があります。
第二に、評価すべきは設計事務所単体のデザイン力だけでなく、構造設計者などを含めた「チームとしての総合力」です。特に構造・防耐火といった専門分野への対応力は必ず確認してください。
そして第三に、優れたパートナーを選んだ後も、明確な契約と円滑なコミュニケーションを通じて、強固な信頼関係を築く努力が不可欠です。
木造非住宅への挑戦は、多くの建築実務者にとって新たな航海のようなものです。
その航海を成功に導くためには、深い専門知識と経験を持つ、信頼できる羅針盤役(=設計パートナー)の存在が欠かせません。
この記事が、皆様にとって最高のパートナーを見つけるための一助となれば幸いです。
もし、設計事務所選びやプロジェクトの進め方でお困りのことがあれば、ぜひ私たちハウス・ベースにご相談ください。
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ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援
非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。
諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。
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ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。
「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための実務支援チームです。
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