【非住宅】コストと工期で徹底比較!鉄骨造vs木造

【非住宅】コストと工期で徹底比較!鉄骨造vs木造

非住宅建築の計画時、施主から「鉄骨造と木造、結局どっちが安くて早いんだ?」と問われ、明確な根拠をもって答えに窮した経験はありませんか?

インターネット上には様々な情報が溢れていますが、その多くは住宅に関するものであったり、情報が古かったりするため、非住宅に特化した最新の比較データを見つけるのは容易ではありません。

この記事では、そんな建築実務者の皆様が自信を持って施主に提案できるよう、2025年最新の客観的データに基づき、鉄骨造と木造の「コスト」と「工期」を徹底的に比較・解説します。

坪単価の単純比較だけでなく、ウッドショック・アイアンショックを経た資材価格の動向、見落としがちな基礎工事費、さらには減価償却による節税効果といった長期的な視点まで網羅。

事業計画の根幹を揺るがす構造選びにおいて、最適な判断を下すための「提案の武器」となる情報を提供します。

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【結論】コストとスピード重視なら木造が有利?初期投資を比較

非住宅建築のコストについて考えるとき、多くの実務者がまず頭に浮かべるのが坪単価でしょう。

しかし、その数字だけを見て判断するのは危険です。

本章では、国土交通省の最新統計データを基に、倉庫や店舗といった具体的な用途別の坪単価を比較。

さらに、ウッドショックとアイアンショックを経た現在の資材価格がコストにどう影響しているのか、そして多くの計画で見落とされがちな基礎工事費という「隠れたコスト」まで掘り下げ、初期投資における両者のリアルな実力差を明らかにします。

【用途別】坪単価で見る衝撃的な価格差

施主への提案で最も説得力を持つのが、客観的なデータです。

国土交通省の建築着工統計調査(2022年)によると、非住宅の主要な用途において、木造は鉄骨造よりも坪単価が低い傾向が明確に示されています 。  

例えば「倉庫」の場合、木造の坪単価が約36~39万円であるのに対し、鉄骨造は約43~46万円とその差は歴然です 。

さらに「事務所」に至っては、木造が約57万円、鉄骨造が約106万円と、倍近い差が生まれるケースもあります 。

店舗においても、木造が約59万円、鉄骨造が約62万円と、木造に価格的な優位性が見られます 。  

もちろん、これは全国平均のデータであり、設計仕様や地域によって変動はありますが、初期コストを抑えたいという施主の要望に対して、木造が非常に有力な選択肢であることを示す強力な材料となるでしょう。

2025年最新!資材価格の動向と建築費への影響

2020年以降、建設業界は「ウッドショック」と「アイアンショック」という二つの大きな価格高騰の波に直面しました 。

2025年現在、その影響は依然として続いています。  

木材価格は、ウッドショックのピーク時よりは落ち着きを見せているものの、輸入価格指数は2020年比で50%以上高い水準を維持しています 。

一方、鉄骨価格も高止まりしており、国内企業物価指数(鉄鋼)は2020年比で約45%高い水準です 。

つまり、どちらの資材も以前より高くなっているのが現状です。

しかし、ハウスメーカーによっては木造で坪5~8万円、鉄骨造では数十万円規模の値上げ影響が出ている例もあり、構造間のコスト差は依然として存在します 。

資材価格が高騰している今だからこそ、基礎工事費なども含めた総工費で比較検討することが、より一層重要になっています。

総工費を左右する「基礎工事」という隠れたコスト

建築費を比較する際、構造躯体の価格に目が行きがちですが、総工費に大きな影響を与えるのが「基礎工事費」です。

そして、この点で木造は大きなアドバンテージを持っています。

木造は鉄骨造に比べて建物全体の重量が軽いため、基礎への負担が少なく、結果として基礎工事の規模を縮小できる可能性が高いのです 。

特に地盤が軟弱な土地では、その差は顕著に現れます。

鉄骨造では大規模な地盤改良や杭工事が必要になるケースでも、軽量な木造であれば杭の本数を減らしたり、場合によっては杭工事自体が不要になったりすることもあります 。  

これは、躯体費の差額を上回るほどのコスト削減に繋がることも少なくありません。

施主への提案時には、坪単価だけでなく、敷地条件を考慮した上での基礎工事費の見込みまで含めて総工費を比較することが、より誠実で説得力のあるアプローチと言えるでしょう。

事業スピードを加速させるのはどっち?工期のリアルを比較

事業スピードを加速させるのはどっち?工期のリアルを比較

「時は金なり」という言葉は、建設プロジェクトにおいてこそ真実味を帯びます。

工期は人件費や資金繰りに直結し、事業の成否を左右する重要な要素です。

鉄骨造の堅牢なイメージから工期が長いと思われがちですが、木造は本当に早いのでしょうか?

本章では、現代の木造建築を支えるプレカット技術の役割と、実際の施工事例を基に、鉄骨造と木造の工期を比較。

事業スピードを重視する施主に対して、どちらがより魅力的な選択肢となり得るのかを検証します。

プレカット技術がもたらす木造の圧倒的な施工スピード

現代の木造建築の工期を劇的に短縮しているのが「プレカット技術」です 。

これは、柱や梁、接合部などを、あらかじめ工場でCAD/CAMシステムと連携した機械で精密に加工し、現場ではプラモデルのように組み立てていく工法です。  

この技術により、現場での手作業による加工が大幅に削減され、天候に左右されにくく、安定した品質でスピーディに建て方を進めることが可能になります 。

また、現場での廃材が少なく環境負荷が低いというメリットもあります。

施工が合理化されることで、職人の経験や技術による品質のばらつきも抑えられ、プロジェクト全体の管理がしやすくなる点も大きな強みです。この施工スピードこそが、木造が持つ競争力の源泉の一つと言えます 。  

鉄骨造の工期は本当に長い?在来工法の場合

一方、鉄骨造の工期はどうでしょうか。

もちろん、システム建築やプレハブ工法であれば比較的短工期で建設することも可能ですが、設計の自由度が高い在来工法で比較した場合、木造よりも長い期間を要するのが一般的です。

在来工法の鉄骨造では、部材の製作に時間がかかるほか、現場での溶接や高力ボルトによる接合といった工程が必要となり、最低でも半年程度の工期が見込まれます 。

特に、現場での溶接作業は天候の影響を受けやすく、熟練した技術者が必要となるため、工期が変動するリスクも木造より高いと言えるでしょう。

事業の早期開始を望む施主にとっては、この工期の差が大きな判断材料となります。

木造倉庫がわずか5ヶ月で竣工できる理由

中小規模の木造倉庫のプロジェクトでは、約5ヶ月という驚異的な短工期を実現することも可能です。

このスピードを実現できた最大の要因は、やはりプレカット技術の活用です。

事前に工場で加工された部材が現場に搬入され、クレーンで次々と組み上げられていく様子は、まさに圧巻です。

現場での加工作業が最小限に抑えられるため、建て方が始まると、あっという間に建物の骨格が姿を現します。

この施工スピードは、人件費の削減に直結するだけでなく、施主が一日でも早く事業を開始できるという大きなメリットをもたらします。

完成後も差がつく!長期的な節税メリットと隠れコスト

完成後も差がつく!長期的な節税メリットと隠れコスト

初期の建築費だけでなく、建物が完成した後の「運用コスト」まで見据えることが、賢明な事業計画の鍵です。

税金や光熱費といったランニングコストは、長期的に見れば初期投資額を上回ることもあります。

本章では、法定耐用年数の違いがもたらす減価償却の節税メリットや、固定資産税、そして構造の断熱性が光熱費に与える影響について比較します。

目先のコストだけでなく、将来にわたるトータルコストでどちらが有利なのかを明らかにします。

減価償却の速さがキャッシュフローを改善する

事業用の建物は、年々その価値が減少していくと見なされ、その減少分を「減価償却費」として経費計上できます。

この計算の基になるのが「法定耐用年数」ですが、この年数が構造によって大きく異なります。

事業用の場合、木造が22年であるのに対し、重量鉄骨造は34年と定められています 。

これは、同じ建築費の建物を建てた場合、木造の方が鉄骨造よりも短い期間で償却するため、1年あたりに計上できる減価償却費が大きくなることを意味します 。  

経費が大きくなれば、その分課税対象となる所得を圧縮できるため、高い節税効果が期待できます 。

特に、事業開始初期のキャッシュフローを安定させたいと考える施主にとって、このメリットは非常に魅力的です。

固定資産税はどちらが安く抑えられるのか?

建物にかかる税金は、減価償却費だけではありません。

毎年支払う必要がある固定資産税も、長期的なコストを考える上で無視できない要素です。

固定資産税は、建物の評価額に基づいて算出されますが、この評価額は一般的に木造の方が鉄骨造よりも低く抑えられる傾向にあります 。

これは、法定耐用年数が短い木造の方が、資産価値の減少が早いと評価されるためです 。  

つまり、同じ規模の建物を建てた場合、木造の方が年々の固定資産税の負担が軽くなる可能性が高いのです。

これは、建物を保有し続ける限り続くメリットであり、長期的な事業収支にプラスの影響を与えます。

断熱性の違いが将来の光熱費に与える影響

意外と見落とされがちなのが、構造の違いによるランニングコスト、特に光熱費への影響です。

木材は、鉄に比べて熱伝導率が非常に低く、優れた断熱性を持っています 。  

この特性により、木造建築は「夏は涼しく、冬は暖かい」環境を作りやすく、冷暖房の効率を高めることができます 。

結果として、年間の光熱費を削減できる可能性が高まります 。

一方、鉄骨造は熱を伝えやすいため、外気の影響を受けやすく、特に柱や梁が外部に露出する部分で「ヒートブリッジ(熱橋)」現象が起こり、結露や断熱性能の低下を招くことがあります 。

もちろん、適切な断熱対策を施すことで性能は確保できますが、そのための追加コストがかかる場合もあります。  

設計の自由度と性能、本当に優れているのはどっち?

設計の自由度と性能、本当に優れているのはどっち?

「大空間を作るなら鉄骨造」「地震や火事に強いのは鉄骨造」——こうした常識は、果たして今も通用するのでしょうか。

技術の進歩は、木造建築の可能性を大きく広げています。

本章では、設計の自由度、耐震・耐火性能、そして現代の建築に不可欠な環境性能という3つの観点から、両者の性能を再評価します。

固定観念を覆す木造の新たな強みと、鉄骨造が持つ揺るぎないメリットを客観的に比較します。

大空間・大開口はもはや鉄骨造だけの特権ではない

確かに、従来は柱の少ない大空間や、壁一面の大きな開口部といった設計は、強度の高い鉄骨造の独壇場でした 。

しかし、その常識はもはや過去のものです。  

近年、大断面集成材やCLT(直交集成板)といったエンジニアードウッドの技術が飛躍的に進歩し、木造でも鉄骨造に遜色ない大スパン構造を実現できるようになりました 。

木造ラーメン構法といった新たな工法も開発され、柱や耐力壁の制約が少なくなったことで、設計の自由度は格段に向上しています 。

木の温もりを感じられる開放的な大空間は、店舗やオフィス、福祉施設など、多くの用途で新たな付加価値を生み出すでしょう。  

耐震・耐火性能に関する「常識」のウソ・ホント

「木は地震に弱く、火事に燃えやすい」というイメージは根強いですが、これも現代の木造建築には当てはまりません。

耐震性については、木材が持つ「しなやかさ」が地震の揺れを吸収し、建物へのダメージを軽減する効果があります 。

適切な構造計算と施工が行われれば、鉄骨造と同等以上の耐震性能を確保することは十分に可能です。  

耐火性についても、「燃えしろ設計」という考え方が重要です 。

これは、火災時に柱や梁の表面が燃えて炭化層を形成することで、内部への燃焼の進行を防ぎ、構造体としての強度を維持するという技術です。

実は、鉄骨は高温に弱く、550℃前後で急激に強度が低下し、一気に倒壊するリスクがあります 。

一方、木材は燃焼がゆっくり進むため、避難時間を確保しやすいという側面もあります。  

SDGs時代に施主から選ばれる「環境性能」という付加価値

現代の企業経営において、SDGsやESGといった環境への配慮は無視できない要素となっています。

そして、この点で木造建築は鉄骨造に対して圧倒的な優位性を持っています 。  

木材は、太陽と水、二酸化炭素から成長する「再生産可能」な循環型資源です 。

樹木は成長過程でCO2を吸収し、伐採されて建材となった後も炭素を長期間固定し続けます 。

これは、脱炭素社会の実現に直接的に貢献することを意味します。  

「環境に配慮した建築物」を手がけることは、施主である企業のブランドイメージを向上させ、社会的な評価を高めることに繋がります 。

この「環境性能」という付加価値は、今後の建築においてますます重要な差別化要因となるでしょう。  

施主への提案に役立つ!構造選びの最終チェックポイント

施主への提案に役立つ!構造選びの最終チェックポイント

ここまで様々な角度から鉄骨造と木造を比較してきましたが、最終的にどちらを選ぶべきかは、プロジェクトの特性によって異なります。

本章では、これまでの情報を踏まえ、建築実務者の皆様が施主へ最適な提案を行うための最終チェックポイントを整理します。

事業計画との整合性の見極め方から、木造化に挑戦する際の不安を解消するためのサポート体制まで、具体的なアクションに繋がるヒントを提供します。

事業計画から導き出す最適な構造の選び方

最適な構造を選ぶ鍵は、施主の事業計画と各構造のメリットをいかに結びつけるかにあります。

以下のようにお客様の優先順位をヒアリングし、提案を組み立ててみましょう。

「初期投資をできるだけ抑え、早期に事業を軌道に乗せたい」 →坪単価が安く、減価償却が早い木造が有利です。

「とにかく一日でも早く建物を完成させ、事業を開始したい」 →プレカット技術により短工期を実現できる木造が有力な選択肢です。

「環境への配慮をアピールし、企業価値を高めたい」 →炭素固定効果や循環型資源である木材を使った木造が最適です。

「柱の少ない、数十メートル級の超大スパン空間が必須」 →この場合は、重量鉄骨造に強みがあります。

このように、施主が何を最も重視しているのかを明確にすることで、データに基づいた説得力のある提案が可能になります。

木造化の不安を解消する専門家サポートの活用

「木造のメリットは理解できたが、非住宅の実績が少なく不安だ」と感じる実務者の方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、非住宅の木造建築には、住宅とは異なる防耐火規定や構造計画のノウハウが必要です 。  

しかし、その不安は専門家のサポートを活用することで解消できます。

私たちハウス・ベース株式会社は、「モクプロ」の運営を通じて有益なナレッジを提供するだけでなく、「広報支援」や「設計支援」、「実務支援」といった具体的なソリューションを提供しています 。

木造非住宅に精通した設計者や施工者のネットワークを活用し、計画段階から竣工まで、皆様の挑戦を全面的にバックアップする体制を整えています。  

まとめ:コスト、工期、未来価値での総合的な判断が鍵

鉄骨造と木造の選択は、単純な優劣で決まるものではありません。

それぞれの特性を正しく理解し、プロジェクトの目的と照らし合わせて総合的に判断することが重要です。

比較項目木造鉄骨造
初期コスト(坪単価)◎ 優位
工期◎ 優位(短い)
節税効果(減価償却)◎ 優位(短期的)
ランニングコスト〇 優位(断熱性)
設計の自由度〇(技術革新で向上)◎(超大スパン)
環境性能◎ 圧倒的に優位

上記の表が示すように、特にコスト、工期、環境性能の面で、現代の木造建築は大きな可能性を秘めています。

これらの客観的な事実を基に、施主の未来にとって最良の選択肢を提案することが、私たち建築実務者に求められています。

まとめ  

まとめ 非住宅 鉄骨造と木造 コスト 工期 比較

今回は、非住宅建築における「鉄骨造」と「木造」について、コストと工期を中心に多角的な視点から比較・解説しました。

結論として、2025年現在のデータに基づくと、初期コスト、工期、減価償却による節税効果、そして環境性能の面で、木造に多くの優位性があることがお分かりいただけたかと思います。

かつて木造の弱点とされた設計の自由度や耐火性能も、技術革新によって大きく改善され、鉄骨造に引けを取らないレベルにまで達しています。

もちろん、鉄骨造にも超大スパンを実現できるといった揺るぎないメリットがあり、最終的な構造選びは、建物の用途、規模、そして何よりも施主の事業計画を深く理解した上で判断すべきです。

構造選びは、単なる設計上の選択ではなく、事業の成功を左右する重要な経営判断です。

この記事が、建築実務者の皆様にとって、施主へ最適な提案を行うための一助となれば幸いです。

「モクプロ」では、今後も木造非住宅に関する専門的なナレッジを提供し、皆様のビジネスの挑戦をサポートしてまいります。

具体的な計画でお悩みの場合や、木造化への一歩を踏み出したいとお考えの際は、ぜひハウス・ベース株式会社の専門家までお気軽にご相談ください。

ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援

非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。

諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。

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ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。

「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための実務支援チームです。

◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出

◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築

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木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。

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著者

一級建築士。群馬県出身。芝浦工業大学卒業後、設計事務所・工務店・木構造材メーカー勤務を経て、2015年にハウス・ベース株式会社を起業。事業内容:住宅・建築関連の業務支援。特に非住宅用途の木造化・木質化支援(広報支援・設計支援・実務支援)に注力。木造非住宅オウンドメディア「モクプロ」を運営。

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