
脱炭素社会へのシフトが加速する中、「木造非住宅」は建設業界における最大のブルーオーシャンとなっています。
しかし、多くの工務店様や建設会社様から、「お施主様から木造の要望があるが、S造やRC造の経験しかなく、何から手をつけていいか分からない」という切実なご相談をいただきます。
実は、非住宅木造の設計プロセスは、鉄骨や鉄筋コンクリート造とは全く異なるアプローチが必要です。
ここを誤ると、大幅な手戻りやコスト超過を招きかねません。
本記事では、木造化・木質化を目指す建築実務者の皆様に向けて、設計の初期段階から竣工までに押さえておくべき重要ポイントを、専門的な視点かつ分かりやすく解説します。
木造非住宅とS造・RC造の決定的な違いとは?

木造非住宅への取り組みを始める際、まず理解しなければならないのは、従来のS造(鉄骨造)やRC造(鉄筋コンクリート造)と同じ感覚で進めてはいけないということです。
多くの実務者がここで躓きます。
木材という自然素材を扱う以上、寸法安定性や強度の考え方が異なるだけでなく、法的な制限も独特です。
ここでは、実務フローにおいて特に意識すべき「他構造との決定的な違い」について解説します。
この違いを理解することが、リスクを回避する第一歩となります。
なぜ「後戻り」ができないのか?設計フローの特性
S造やRC造では、ある程度設計が進んだ段階でも、部材のサイズ変更や納まりの調整が現場対応で可能な場合があります。
しかし、木造、特に中大規模木造においては「後戻り」が致命傷になりかねません。
木造はプレカット工場での加工が前提となるため、構造図と意匠図の整合性が早い段階で確定している必要があります。
加工が始まってからの変更は、新たな材料手配や再加工を意味し、工期とコストに直撃します。
そのため、実施設計の完了時点で、ほぼ全ての仕様が決まっている「フロントローディング」型の設計プロセスが求められるのです。
基本設計段階での「構造・設備」の整合性の重要性
木造非住宅では、基本設計の段階から構造設計者が関与することが成功の条件です。
なぜなら、木造は梁や柱のサイズが、空間の高さや設備配管のルートに直接干渉しやすいからです。
例えば、大空間を作るために梁成(はりせい)が大きくなり、予定していた空調ダクトが通らない、といったトラブルは典型的です。
S造のように梁に貫通孔を自由に空けることも難しいため、初期段階から設備ルートと構造架構をセットで検討する必要があります。
「意匠が決まってから構造にお願いする」という従来の流れは通用しません。
木造ならではの「法規制」と「地域区分」の壁
非住宅を木造化する際、最も高いハードルとなるのが建築基準法、特に防耐火規定です。
建てる場所が「防火地域」なのか「準防火地域」なのか、あるいは「法22条区域」なのかによって、建てられる規模や仕様が劇的に変わります。
例えば、防火地域で一定規模以上の木造を建てる場合、「耐火建築物」とする必要があり、木材を石膏ボードで被覆しなければならないケースが多くなります。
これでは「木の温かみを見せたい」という施主の要望と矛盾が生じます。
この法規制のパズルを初期段階で解き明かすことが、木造設計の肝となります。
プロジェクト始動!基本計画・企画時のチェックポイント

プロジェクトの立ち上げ段階こそ、木造非住宅の成否を分ける最も重要なフェーズです。
ここで方向性を誤ると、後の実施設計や工事段階で取り返しのつかない問題が発生します。
お施主様の要望である「コスト」「デザイン」「工期」を満たすためには、企画時点で木造特有の条件整理を徹底する必要があります。
ここでは、具体的な計画に着手する前に必ず確認すべきチェックポイントを整理します。
敷地条件と「防火地域」が木造の規模を決める
前項でも触れましたが、敷地調査は木造計画の命綱です。
まず確認すべきは、その敷地が都市計画法上のどの地域に属するかです。
例えば、そこが準防火地域であれば「準耐火建築物」で建設可能かもしれません。
準耐火であれば、燃え代設計(もえしろせっけい)を用いることで、柱や梁を現し(あらわし)にできる可能性が高まります。
しかし、もし防火地域であれば、より厳しい耐火性能が求められ、コストも跳ね上がります。
規模と用途、そして敷地条件の3要素を掛け合わせ、法的な実現可能性を最初にジャッジする必要があります。
コスト概算を狂わせないための初期プランニング

「木造は安い」というイメージを持たれがちですが、非住宅分野では必ずしもそうではありません。
特に、特殊な金物工法や、耐火被覆が必要な場合は、S造と変わらない、あるいは高くなることもあります。
初期のコスト概算で失敗しないためには、スパン(柱間の距離)割りが重要です。
一般流通している木材(6m以下など)で構成できるスパンに収めるのか、特注の集成材を使って大空間を作るのかで、坪単価は大きく変動します。
流通材をうまく活用するプランニングこそが、コスト競争力のある提案に繋がります。
補助金活用は「タイミング」が命!スケジュールの逆算
木造化・木質化には、国や自治体から多くの補助金が用意されています(例:JAS構造材実証支援事業など)。
これらは数百万円〜数千万円規模の支援になることもあり、事業主にとって大きなメリットです。
しかし、補助金は「公募期間」が決まっており、採択されるまで着工できないなどの制約があります。
「設計が終わってから申請しよう」では手遅れになるケースがほとんどです。
企画段階でどの補助金が使えるかをリサーチし、その申請スケジュールから逆算して設計・着工の工程を組むことが、賢いプロジェクト進行の要となります。
最大の難所「構造設計」と「防耐火」を攻略する

建築実務者の皆様が最も不安を感じるのが、専門的な「構造」と「防耐火」の領域ではないでしょうか。
住宅レベルの知識では対応できない中大規模木造の技術的課題は、避けては通れない道です。
しかし、裏を返せば、ここを攻略できれば木造非住宅ビジネスは大きな強みとなります。
ここでは、複雑な技術論ではなく、実務的な判断基準として知っておくべきポイントを解説します。
大空間を実現するための架構(構造)形式の選び方
非住宅(オフィスや店舗、倉庫など)では、住宅とは比較にならない大空間や広いスパンが求められます。
これを実現するために、どのような架構形式を選ぶかがポイントです。
一般的には、柱と梁で支える「ラーメン構造(木造ラーメン)」や、壁で支える「壁式構造」、あるいはトラス(三角形)を組む方法などがあります。
例えば、間仕切りの少ない開放的なオフィスならラーメン構造が有利ですが、コストは高めです。
一方、壁が多くても良い福祉施設なら、在来軸組工法に耐力壁を配置する方が安価に済みます。
用途に合わせた最適な構造形式の選定が重要です。
耐火建築物か準耐火か?コストと工期への影響
「耐火建築物」にするか、「準耐火建築物」で収めるか。
この選択は、建築費と工期に直結します。
耐火建築物は、火災時に建物が崩壊しない最高レベルの性能ですが、柱や梁を石膏ボード等で何重にも被覆する必要があり、施工手間も材料費も増大します。
一方、準耐火建築物は一定時間の延焼を防ぐ仕様で、規制緩和により木造の良さを活かしやすくなっています。
設計の工夫(延焼ラインの管理や防火区画の設定など)により、可能な限り準耐火で設計することが、コストパフォーマンスを高める定石テクニックの一つです。
意匠性を損なわない「現し(あらわし)」仕上げの技術

「せっかく木造にするなら、木を見せたい」というニーズは絶大です。
しかし、防耐火規制により、木材を隠さざるを得ないケースが多いのが現実です。
そこで活用したいのが「燃え代設計(もえしろせっけい)」です。
これは、万が一火災になっても、表面の一定厚みが炭化することで内部の芯を守り、構造耐力を維持するという考え方です。
これを使えば、太い柱や梁をそのまま室内空間に見せることが可能になります。
意匠性と構造・防耐火を両立させる、木造非住宅ならではの醍醐味と言える技術です。
失敗しない「コスト管理」と「木材調達」の秘訣

設計図が描けても、実際に建てられなければ意味がありません。
木造非住宅プロジェクトで頻発するトラブルが、「見積もりを取ったら予算オーバーだった」「木材が納期に間に合わない」という事態です。
木材は工業製品ではなく市況商品であり、生き物です。
S造やRC造の資材調達ルートとは異なる、木造特有のロジックを理解しておく必要があります。

ウッドショックに負けない!木材の早期確保と単価設定
記憶に新しい「ウッドショック」のように、木材価格は世界情勢や需給バランスで変動します。
見積もり時の単価で契約しても、いざ発注する段階で高騰しているリスクがあります。
これを防ぐには、概算見積もりの段階で、ある程度のリスク(予備費)を見込んでおくこと、そして可能な限り早い段階で木材業者と連携し、材料を押さえておくことが重要です。
専門会社を通じて、最新の木材市況情報を常に入手し、お施主様へ適切なタイミングで説明できる体制を整えておくことが信頼に繋がります。
特殊加工とプレカット工場の選定基準
住宅用の一般的なプレカット工場では、非住宅特有の大型部材や特殊な継手(つぎて)・仕口(しぐち)の加工ができない場合があります。
設計段階で複雑な形状を描いても、それを加工できる工場が日本に数箇所しかなければ、輸送費も加工費も跳ね上がりますし、工場のスケジュール待ちで工期が遅れます。
設計図を描く前に、「このエリアで、この加工ができる工場はどこか?」を把握しておく必要があります。
工場のスペックに合わせて設計を調整する、という逆転の発想も時には必要です。
流通材(一般流通材)と特注材のバランス設計
コストダウンの最大の鍵は「一般流通材」の活用です。
ホームセンターや地元の材木店でも手に入るような規格寸法の木材は、大量生産されており安価です。
一方、大スパンを飛ばすための「特注集成材」は、製造に数ヶ月かかり、価格も割高です。
全ての梁を特注材にするのではなく、大空間が必要な部分だけに特注材を使い、小部屋や廊下などは流通材で組むといった「ハイブリッドな設計」が、経済合理性の高い木造建築を実現します。
木造非住宅を成功させる最強のチームビルディング

ここまで解説してきた通り、木造非住宅の設計・施工には、意匠、構造、防耐火、コスト、調達といった多岐にわたる専門知識が必要です。
これらを一人の建築実務者や一社だけで完結させるのは、現実的ではありませんし、リスクが高すぎます。
これからの時代に求められるのは、外部の専門家を巻き込んだ「チームビルディング」です。
建築のプロでも陥る「木造のプロではない」という悩み
「普段はRCのマンションを建てているが、木造の店舗を頼まれた」「住宅は得意だが、大規模な施設は怖い」。このようなジレンマは、決して恥ずかしいことではありません。
むしろ、非住宅木造はそれほど特殊なスキルセットを要求される分野なのです。
無理に自社だけで解決しようとして、法規の解釈ミスや構造上の欠陥を招いてしまっては、企業の信用問題に関わります。
重要なのは、「分からないことを素直に相談できるパートナー」を見つけることです。
専門知識を持つパートナーとの連携が成功の鍵
木造非住宅プロジェクトでは、早い段階で「木造に強い構造設計事務所」や「木材コーディネーター」をチームに招き入れることが成功への近道です。
彼らは、最適な架構形式の提案や、コストを抑えるための木材選定、プレカット工場との調整など、実務者が苦手とする部分をカバーしてくれます。
餅は餅屋。
それぞれのプロフェッショナルが知恵を出し合うことで、初めて質の高い木造建築が完成します。
ハウス・ベースが提供する「木造化・木質化支援」のメリット
私たちハウス・ベースは、まさにそのような「建築実務者のパートナー」として存在しています。
「モクプロ」を通じて情報発信を行うだけでなく、実際のプロジェクトにおいても、基本計画のサポートから構造設計者の選定、木材調達の調整、現場監理の助言まで、トータルで支援します。
「木造非住宅に挑戦したいが、ノウハウがない」。
そんな工務店様や建設会社様の黒子となり、共に課題を解決し、プロジェクトを成功へと導く。
それが私たちの「木造化・木質化支援」です。
まとめ

木造非住宅の設計プロセスは、S造やRC造とは異なる独自のルールとノウハウが必要です。
法規制の壁、構造計画の難しさ、コスト管理の複雑さなど、多くのハードルが存在しますが、これらを一つひとつクリアした先には、脱炭素社会に貢献する大きなビジネスチャンスが待っています。
重要なのは、全ての知識を自社だけで抱え込まないことです。
分からないことは専門家に頼り、適切なチームを組むことが、リスクを最小限に抑え、質の高い建築を実現する最短ルートです。
ハウス・ベースは、木造化・木質化に挑む皆様の「プラットフォーム」として、ナレッジの提供から実務支援まで、全力でバックアップいたします。
木造非住宅の案件でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援
非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。
諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。
木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。
ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。
「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための業務支援チームです。
◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出
◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築
【主なサービス内容】
◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等

◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等

◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等

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