【書評】「設計者のための建築不動産コンサルティングのはじめかた」

【書評】「設計者のための建築不動産コンサルティングのはじめかた」

これからの社会において、建築実務者にはこれまでにない変化が求められています。

特に、私たちが注目している「木造非住宅」の分野は、単に建物を設計・施工するだけでなく、事業主のビジネスを成功させるための「事業企画」としての側面が色濃く反映されます。

しかし、多くの設計者や工務店の方は、「良い建物を作る自信はあるが、土地探しや収支計画などの不動産領域は専門外だ」と感じているのではないでしょうか。

今回ご紹介する書籍、高橋寿太郎氏の著書『設計者のための建築不動産コンサルティングのはじめかた』は、まさにそんなジレンマを抱える建築実務者に一筋の光を与える一冊です。

著者の高橋氏は、建築と不動産の「あいだ」を追究する「創造系不動産」を率い、業界の常識を覆す数々のプロジェクトを手掛けてこられました。

本書は、単なるノウハウ本ではありません。

設計者が本来持っている能力を、いかにして不動産・ビジネスの領域で発揮し、クライアントに最大の価値を提供するかという「職能の拡張」について書かれています。

木造化・木質化のプロジェクトにおいても、この「建築不動産コンサルティング」の視点は強力な武器になります。

本書から得られる学びを、モクプロ独自の視点で紐解いていきます。

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なぜ今、設計者に「不動産視点」が不可欠なのか

近年、建築業界を取り巻く環境は激変しています。

かつてのように、決まった敷地に決まった予算で建物を建てるだけの仕事は減少しつつあります。

特に非住宅分野では、クライアントは「建物を建てること」自体が目的ではなく、その建物を通じて「いかに利益を生むか」「どう企業価値を高めるか」を重視しています。 

しかし、多くの設計者は図面を描くことには長けていても、その前段階である「土地選びの妥当性」や「事業収支のバランス」について相談されると、答えに窮してしまうのが現状です。

なぜ今、設計者が不動産の知識を持つことが急務なのか、その背景を探ります。

設計だけでは解決できないクライアントの悩み 

クライアントが建築プロジェクトを始める際、最初に直面するのは「どこに建てるか」「いくらかかるか」「将来性はあるか」という不動産・経済的な悩みです。

これらは設計図を描くずっと前の段階で決まります。

もし設計者がこの段階に関与できなければ、すでに条件の悪い土地や、無理のある予算組みが決定した後にバトンを渡されることになります。

それでは、どれほど優れた設計技術があっても、プロジェクトを成功に導くのは困難です。

本書が示唆するように、川上である不動産段階から関与することで、設計者はクライアントの真の課題解決パートナーになれるのです。

木造非住宅プロジェクトで求められる事業性 

特に「木造非住宅」のプロジェクトでは、事業性がシビアに問われます。

RC造やS造と比較して、工期の短縮や減価償却のメリットなどを数字で説明できなければ、木造化の採用には至りません。

ここで必要になるのが、不動産的な思考です。

「このエリアの賃料相場なら、木造でコストを抑えつつデザイン性を高めれば高利回りが狙える」といった提案は、建築と不動産の両方を知っているからこそ可能です。

本書に書かれているコンサルティング視点は、木造化・木質化を推進する上で、説得力のある事業計画を策定するための基礎体力となります。

「待ち」の姿勢から「提案」する実務者への転換 

従来、設計事務所や工務店は、不動産会社が土地を仲介し終わった後に仕事が来るのを「待つ」立場でした。

しかし、これでは価格競争に巻き込まれやすく、自社の強みも発揮しにくいのが現実です。

本書では、設計者がビジネス思考や不動産知識を持つことで、土地探しの段階からクライアントに寄り添う「能動的な実務者」へと変わる重要性が説かれています。

受動的な請負業から脱却し、プロジェクトの全体像を描くコンサルタントとしての立ち位置を確立すること。

それこそが、これからの時代に生き残る設計者の姿であり、本書が指し示す道標です。

『建築不動産コンサルティングのはじめかた』から学ぶ思考法

著者の高橋寿太郎氏は、建築設計者としてのバックグラウンドを持ちながら、不動産業界に飛び込み、両者の「言葉の通じなさ」や「商習慣の違い」を肌で感じてこられました。

その経験から生まれたのが「創造系不動産」という会社です。 

本書を読むと、建築と不動産は本来密接に関わるべきものであるにもかかわらず、実務上は驚くほど分断されていることに気づかされます。

高橋氏が本書を通じて伝えている、二つの領域を架橋するための思考法やマインドセットについて、感じたことをまとめます。

建築と不動産の「共通言語」を持つ重要性 

建築家は「空間の質」や「デザインの意図」を語りますが、不動産業者や投資家は「利回り」や「資産価値」「流動性」を語ります。

この言語の不一致が、多くのプロジェクトで誤解や摩擦を生んでいます。

本書の核心の一つは、設計者が不動産の語彙(ボキャブラリー)を学ぶことで、翻訳者になれるという点です。

例えば、建築法規の制限を「デザインの制約」と捉えるのではなく、「その土地が持つポテンシャルの限界値」として経済的価値に換算して説明する。

そのような「共通言語」を持つことで、プロジェクトの進行は劇的にスムーズになります。

高橋寿太郎氏が提唱する「創造系」のアプローチ 

高橋氏の活動へのリスペクトを込めて特筆すべきは、単に「不動産の仲介もやりましょう」と言っているわけではない点です。

「創造系」という言葉には、建築的なクリエイティビティを不動産取引に持ち込むという意志が込められています。

一般的な不動産屋が見落としてしまうような変形地や狭小地であっても、建築家の視点があれば「ユニークな建築が可能で、割安な土地」として価値を見出せます。

本書では、そうした建築家ならではの「目利き力」こそが、最大のコンサルティング資源であると勇気づけてくれます。

敷地を読む力と法規・経済条件の統合 

設計者は普段から「敷地を読む」訓練を受けています。

光の入り方、風の抜け方、近隣との関係性などです。

本書では、そこに「経済条件」というレイヤーを重ね合わせることを推奨しています。

「この道路付けなら容積率を最大限活かせる」「この用途地域なら将来的な転売もしやすい」といった視点です。

建築的な「物理的環境」の読み解きに、不動産的な「法的・経済的環境」の読み解きを統合する。

これによって、単にかっこいいだけでなく、ビジネスとして成立する強固な建築企画が生まれるのです。

明日から実践できる建築不動産コンサルティングへの第一歩

「理屈はわかったけれど、具体的に何から始めればいいのか?」

本書はそんな疑問にも答えてくれます。

建築不動産コンサルティングといっても、いきなり宅建業の免許を取って不動産屋を開業する必要はありません(もちろん、それも一つの道ですが)。 

大切なのは、今の業務の中で「意識」を変え、クライアントとの関わり方を少しずつシフトさせていくことです。

本書の教えを参考にしつつ、木造非住宅などのプロジェクトに取り組む皆様が、明日から実践できる具体的なアクションについて考えてみます。

設計・デザインの前段階にある「企画」に関わる 

まずは、設計依頼が来る前の「相談」を大切にすることです。

「まだ土地も決まっていないんだけど」という相談こそ、コンサルティングのチャンスです。

本書でも触れられていますが、この段階で「どのような建物を建てれば事業として成り立つか」という企画書やボリュームスタディ(概算検討)を提供することは大きな価値になります。

たとえその時点で契約に至らなくても、頼れるパートナーとしての信頼は積み上がります。

木造非住宅であれば、「木造によるコストメリット試算」を簡易的に提示するだけでも、強力な武器になるでしょう。

他士業・専門家とのネットワーク構築 

建築不動産コンサルティングは、一人ですべてを行う必要はありません。

むしろ、信頼できる不動産会社、税理士、弁護士などとチームを組むことが重要です。

本書では、設計者が「ハブ(結節点)」となり、専門家チームをまとめる役割を担うことが推奨されています。

例えば、相続対策で悩む地主さんに対して、税理士と連携して土地活用としての木造賃貸住宅を提案するような動きです。

自社に足りない専門知識は、外部のプロと連携することで補完し、トータルサービスとして提供すればよいのです。

信頼される「パートナー」としてのポジション確立 

最終的に目指すべきは、クライアントから「建物を建てる人」ではなく、「事業を成功させてくれるパートナー」として認知されることです。

本書を通じて感じるのは、高橋氏の「建築愛」と「クライアントへの誠実さ」です。

リスクも正直に伝え、建築の可能性も熱く語る。

その姿勢が信頼を生みます。

木造化・木質化のプロジェクトは、環境配慮や地域貢献といった社会的意義も高い事業です。

建築・不動産の知識を総動員してその意義を実現に導くことは、設計者にとって大きなやりがいとなり、ビジネスの安定にもつながるはずです。

まとめ

今回は、高橋寿太郎氏の著書『設計者のための建築不動産コンサルティングのはじめかた』をご紹介しました。

本書は、建築実務者が「建築のプロ」という枠を超え、「プロジェクト全体のプロ」へと進化するためのバイブルです。

特に、ハウス・ベースが推進する「木造非住宅」の分野は、これからの大きなブルーオーシャンですが、そこへ踏み出すためには、建築知識だけでなく、本書で語られているような不動産・事業収支の視点が欠かせません。

「建築はわかるが、不動産や事業収支は苦手だ」 

「木造で提案したいが、コストやメリットの説明に自信がない」

そのような不安を抱えている方こそ、ぜひ本書を手に取ってみてください。

建築実務者ならではの感性を活かした不動産コンサルティングは、きっと強力な武器になるはずです。

私たち「モクプロ」運営元のハウス・ベース株式会社もまた、木造化・木質化を目指す皆様の「パートナー」です。 

本書で得た知識を実務に落とし込む際、木造非住宅に関する広報支援、設計支援、実務支援が必要な場合は、ぜひ私たちにご相談ください。

建築と不動産、そして木造技術。

これらを融合させ、共に新しい建築の未来を切り拓いていきましょう。

設計者のための建築不動産コンサルティングのはじめかた

ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援

非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。

諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。

木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。

ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。

「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための業務支援チームです。

◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出

◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築

【主なサービス内容】

◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等

◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等

◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等

木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。

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著者

一級建築士。群馬県出身。芝浦工業大学卒業後、設計事務所・工務店・木構造材メーカー勤務を経て、2015年にハウス・ベース株式会社を起業。事業内容:住宅・建築関連の業務支援。特に非住宅用途の木造化・木質化支援(広報支援・設計支援・実務支援)に注力。木造非住宅オウンドメディア「モクプロ」を運営。

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