
「いつもの住宅でお世話になっているプレカット工場に図面を送ったら、断られてしまった」
「構造計算を依頼したが、出てきた見積もりが予算の倍以上だった」
S造やRC造から初めて本格的な「木造非住宅」に挑戦する際、多くの実務者が直面するのがこの問題です。
戸建住宅の設計・施工ルートをそのまま規模拡大して適用しようとすると、必ずどこかで歪みが生じます。
なぜなら、木造住宅と木造非住宅は、使用する「言語」も「技術」も全く異なる別世界だからです。
プロジェクト成功の鍵は、設計の初期段階で「非住宅に精通したチーム」を組めるかどうかにかかっています。
今回は、特に重要なパートナーである「構造設計者」と「プレカット工場」の選び方、その見極めポイントを解説します。
構造設計者の選び方:「計算ができる」だけでは不十分
非住宅木造において、構造設計者の力量はコストとデザインに直結します。
「木造の構造計算ができます」という事務所は多いですが、非住宅プロジェクトを任せるなら、以下の3つの視点が必要です。
① 「許容応力度計算」の実績とスピード感
一般的な小規模住宅(4号建築物など)では簡易なチェックで済むことが多いですが、非住宅ではS造同様の厳密な構造計算(許容応力度計算以上)が必須です。
ここで重要なのは「木造非住宅の勘所(かんどころ)を持っているか」です。
経験の浅い設計者は安全率を過剰に見込む傾向があり、結果として「柱だらけ」「梁が巨大すぎる」という、コスト高で使い勝手の悪いプランになりがちです。
② S造・RC造の「言語」がわかるか
意匠設計者が普段S造メインの場合、共通言語で話せる構造家が必要です。
「ラーメン構造の感覚でプランしたものを、どう木造のブレース構造やトラスに翻訳するか」。
この変換能力がないと、意匠図と構造図の整合性が取れず、現場でトラブルになります。
③ 「プレカット」を意識した設計ができるか
ここが最も重要です。
机上の計算で成立していても、実際の木材加工(プレカット)や現場での組み立てが困難な設計であっては意味がありません。
「この接合部は特殊金物が必要になるからコストが跳ね上がる」「ここは流通材の組み合わせでいける」といった、施工とコストのバランス感覚を持った構造家を選ぶ必要があります。
プレカット工場の選び方:機械のスペックより「CAD力」
プレカット工場ならどこも同じ、ではありません。
住宅メインの工場と、非住宅対応の工場では、機能が大きく異なります。
① 特殊加工機と長尺材への対応
住宅用ラインは通常、3m〜4mの材を高速で加工することに特化しています。
しかし非住宅では、6m以上の通し柱や、大断面集成材、トラスの斜め加工などが発生します。
これらの「特殊加工機」を持っているか、あるいは手加工できる大工を抱えているか、の確認が必要です。
② 「生産設計図(加工図)」を描くCADチームの能力
非住宅プロジェクトで工場に求められる最大の能力は、実は「加工」そのものよりも、その前段階の「CAD入力(図面作成)」にあります。
意匠図と構造図を読み解き、実際に木材をどう刻むかという「加工図」に落とし込む作業は、高度な専門知識を要します。
「図面通りに入力するだけ」ではなく、「ここの納まりは無理があるから、こう変更できませんか?」と設計側に提案(フィードバック)できるCADチームがいる工場でなければ、現場は止まります。
③ 搬入計画と物流
4tトラックしか入れない現場に、10mの梁を運ぶことはできません。
非住宅は敷地条件も様々です。
「どのサイズのトラックで、どういうルートで搬入するか」までを含めて提案できる物流ノウハウも、工場選定の重要なファクターです。
最悪のシナリオ:パートナー選定ミスで起こること
もし、非住宅のノウハウがないパートナーと組んでしまった場合、以下のようなトラブルが頻発します。
- 見積もり落ち: プレカット図作成費や、特殊金物代が含まれておらず、後から数百万円の追加費用が発生。
- 手戻りの嵐: 構造図通りに加工しようとしたら機械に入らず、設計変更で工期が遅延。
- 現場での立ち往生: 搬入された木材の継手位置が悪く、クレーンで吊れない、組み上がらない。
これらは全て、「設計(川上)」と「生産(川下)」の連携不足から生じます。
まとめ
木造非住宅を成功させるためには、設計の早い段階で「構造設計者」と「プレカット工場」をセットで検討し、連携させることが鉄則です。
しかし、自社のプロジェクトに最適なパートナーを、数ある会社の中から自力で見つけ出すのは困難です。
全国のプレカット工場や構造事務所の「得意分野」や「稼働状況」を把握することが重要です。
図面を描き始める前に、まずは「誰と組むか」をご検討ください。
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