
「木造で10m以上のスパンを飛ばしたい」 そう考えた時、多くの設計者の頭に浮かぶのは、巨大な「大断面集成材」と、それを繋ぐ高価な「既製金物(特殊金物)」の組み合わせではないでしょうか。
確かに、それらを使えば大空間は実現できます。
しかし、コストは跳ね上がり、納期も数ヶ月単位で必要になります。
「これではS造の方が安い」という結論になりがちです。
しかし、諦めるのはまだ早いです。
一般的な「流通材(105角や120角)」と「汎用金物」だけでも、設計の工夫次第で大スパンは実現可能です。
今回は、コストと納期を劇的に圧縮する、流通材を活用した「木造大スパン」の設計手法を解説します。
なぜ「流通材」なのか?コストと納期の圧倒的メリット
まず、言葉の定義を整理します。
ここでの「流通材」とは、住宅市場で一般的に流通している柱や梁(105mm幅、120mm幅で、長さ3m〜4m程度の製材や集成材)を指します。
これらを大スパン建築に使うメリットは計り知れません。
- コストダウン: 特注の大断面集成材に比べ、立米単価が安価で安定している。
- 調達の容易さ: 特殊なルートを使わず、地域のプレカット会社から納入可能。
- 施工の汎用性: 重機が小型で済み、地元の大工の手で加工・施工ができる。
「普通の材料で、特別な空間を作る」。
これこそが、木造非住宅の普及における鍵となります。
流通材で大スパンを飛ばす「3つの構造テクニック」
では、細くて短い流通材で、どうやってロングスパンを支えるのか。
代表的な3つの手法を紹介します。
① トラス構造(平行弦トラス・山形トラス)
最もポピュラーで効果的な手法です。
三角形を連続させることで、細い部材でも大きな荷重に耐えることができます。
◾️平行弦トラス
上弦材と下弦材を平行に配置し、斜材で繋ぐ方法。
梁せいは高くなりますが、その懐(ふところ)空間にダクトや配管を通せるため、階高を抑えられます。
10m〜15m程度なら流通材のみで十分に可能です。
◾️合板ガセット接合
特殊な金物を使わず、構造用合板を両側から釘打ちして接合する手法(ネイルプレート等も含む)。
材料費も安く、現場施工も可能です。
② 組立梁(合わせ梁・重ね梁)
流通材をボルトやラグスクリューで束ねて、擬似的な「大断面」を作る手法です。
- メリット: 120×240の梁を3本抱き合わせて、120×720相当の強度を出す、といった調整が現場レベルで可能です。
- 注意点: 単純に重ねるだけでは一体化しません。すべりを防ぐための緊結方法(シアプレートやボルト配置)に構造計算上のノウハウが必要となります。
③ 張弦梁(ちょうげんばり)
梁の下に束(つか)を立て、高強度の鋼棒(タイバー)で引っ張ることで、梁のたわみを防ぐ手法です。
上部は流通材の梁、下部は鉄の引張材というハイブリッド構造です。
意匠的にも軽快で、体育館やホールなどでよく見られますが、タイバーの定着部など一部に鉄工所の加工が必要になる場合があります。
「特殊金物なし」で設計する際のポイントと注意点
特注金物(鋳物や既製品のラーメン接合金物)を使わない場合、接合部は基本的に「在来軸組工法」の延長線上にある仕口や、ボルト・ドリフトピンによる接合となります。
接合部の「すべり」と「回転」
特殊金物は「剛接合(ガチガチに固める)」に近い性能を出せますが、一般的なボルト接合は「ピン接合(回転する)」として扱われます。 そのため、トラスなどの「軸力(引っ張る力と圧縮する力)」で抵抗する架構形式を選ぶ必要があります。
クリープ変形(たわみ)の予測
木材は、長期間荷重がかかると徐々にたわみが進行する「クリープ現象」が起こります。
大スパンの場合、竣工時は平気でも、数年後に中央が下がってくるリスクがあります。
- 対策1: 構造計算でクリープ変形を見込んだ断面にする。
- 対策2: 施工時にあらかじめ中央を少し持ち上げておく「むくり(キャンバー)」を設ける。
木材の「定尺」を意識した継手位置
流通材は長くても4m〜6mです。
10mのスパンを飛ばすには、必ずどこかで木材を継ぐ(ジョイントする)必要があります。
応力が最大になる梁の中央で継ぐのは御法度です。
応力の小さい位置を狙って継手を配置する、構造的な「割り付け計画」がコストに直結します。
事例:倉庫から保育園まで。広がる「流通材メソッド」
この「流通材×大スパン」の手法は、コスト意識のシビアな実務現場で急速に広まっています。
- 物流倉庫: トラス構造を用い、柱のない広い荷捌きスペースをローコストで実現。
- 保育園の遊戯室: 地域の木材(流通材)を現しで使い、温かみのある大空間を創出。
- オフィスの執務室: 並行弦トラスの隙間を設備スペースとして活用し、意匠と機能を両立。
「特殊なことをしない」からこそ、メンテナンスもしやすく、将来的な改修も容易です。
まとめ:構造計画の初期段階が勝負
大スパンを流通材で実現するためには、設計の初期段階(基本設計)から、「トラスが組める高さ設定になっているか」「部材の規格(定尺)に合ったグリッドになっているか」を検証する必要があります。
実施設計に入ってから「やっぱり流通材で」と変更しようとしても、梁せいが納まらず、計画が破綻することがあります。
ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援
非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。
諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。
木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。
ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。
「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための業務支援チームです。
◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出
◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築
【主なサービス内容】
◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等

◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等

◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等

木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。








