工務店が参入すべき木造非住宅の用途とは?住宅ノウハウが活きる3選

工務店が参入すべき木造非住宅の用途とは?住宅ノウハウが活きる3選

「新築住宅の着工棟数が減り続ける中、次の柱として『非住宅』に挑戦したい」

そう考える工務店経営者様や実務担当者様が増えています。

しかし、いざ非住宅市場を見渡すと、大規模な公共建築や特殊な工法が必要な案件ばかりが目につき、「うちの技術力や規模では無理だ」と諦めてしまってはいないでしょうか。

実は、工務店がこれまでに培ってきた「住宅づくりのノウハウ」をそのまま活かし、無理なく参入できる“スイートスポット”が存在します。

それは、鉄骨造で建てるほどではないけれど、プレハブでは物足りないという「中規模建築」の領域です。

現在、資材価格の高騰により、鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)の建築コストは跳ね上がっています。

そのため、コストを抑えられ、工期も短縮できる「木造」への注目度は、かつてないほど高まっているのです。

この記事では、工務店様がリスクを抑えて参入できる「3つの用途」を厳選してご紹介します。

これらは決して難しいものではなく、明日からでも営業活動を始められる現実的な選択肢です。

非住宅事業の第一歩を、ここから踏み出してみませんか。


INDEX

なぜ今、「住宅の延長」にある非住宅木造が狙い目なのか

なぜ今、「住宅の延長」にある非住宅木造が狙い目なのか

非住宅と聞くと、多くの建築実務者は「特殊な金物工法が必要なのでは?」「梁のサイズが特注になるのでは?」と身構えてしまいます。

しかし、いきなり高難易度な案件に手を出す必要はありません。

成功している工務店の多くは、最初からホームランを狙わず、まずはヒットを打てる案件から着実に実績を積んでいます。

その鍵となるのが、「住宅の延長」という考え方です。

普段使い慣れた材料、いつもの職人さん、そしてこれまでの設計手法。

これらを最大限に活用できる領域こそが、工務店が最も利益を出しやすく、かつお客様(施主様)に喜ばれる「勝ち筋」なのです。

ここではその理由を3つの視点で紐解きます。

一般流通材と在来工法で建てられる「規模感」の重要性

非住宅への参入で失敗する最大の要因は、コスト管理の甘さです。

特に、特注サイズの木材(ロングスパン用の集成材など)を多用すると、運搬費や加工賃が嵩み、木造のコストメリットが薄れてしまいます。

狙い目は、延床面積50坪〜150坪程度、スパン(柱間の距離)が4〜6メートル程度の建物です。

この規模であれば、住宅用の一般流通材(3m、4m材)を使用し、プレカット工場での加工もスムーズに行えます。

また、施工も普段依頼している大工さんがいつもの道具で行えるため、新たな職人を探す手間や労務リスクも抑えられます。

「いつもの材料と技術で、用途だけを変える」。これが最もリスクの低い参入戦略です。

鉄骨造の資材高騰が追い風!コスト競争力での勝算

ウッドショック以降、木材価格も変動しましたが、それ以上に鉄骨やコンクリートの価格高騰は深刻です。

中小企業の経営者や開業医にとって、S造の見積もり金額は事業計画を圧迫する大きな要因となっています。

ここで工務店が提案すべきなのが、「木造への切り替え(VE提案)」です。

一般的に、同規模の建物であれば、S造に比べて木造は基礎工事のボリュームが減るため、総工費を抑えやすくなります。

また、地盤改良費の削減も期待できます。

「鉄骨でないと建てられない」と思い込んでいる施主様に対し、「木造ならご予算内で、しかも高性能な建物が建ちます」と提案することは、強力な差別化となります。

施主が求めているのは「無機質な箱」より「温もりのある空間」

機能性や耐久性だけでなく、「デザイン」や「居心地」がビジネスの成功を左右する時代になりました。

例えば、患者様がリラックスできるクリニックや、社員がクリエイティブに働けるオフィスなどです。

鉄骨造で内装を木質化しようとすると、「張りぼて」の仕上げにお金がかかりますが、木造なら構造体(柱や梁)をそのまま見せる「あらわし」のデザインが可能です。

これは工務店が得意とする「木の温もりある空間づくり」そのものです。

無機質なビル建築ではなく、人が心地よく過ごせる空間を提供できることは、他の建設会社にはない工務店ならではの強烈な武器になります。


工務店がまずはここから狙うべき「3つのエントリーモデル」

工務店がまずはここから狙うべき「3つのエントリーモデル」

では、具体的にどのような建物をターゲットにすればよいのでしょうか。

「何でも建てます」というスタンスでは、実績のあるゼネコンや特化型の建設会社には勝てません。

工務店の強みが生き、かつ市場ニーズが高い用途に絞り込むことが重要です。

ここでは、住宅事業を行ってきた工務店様が、無理なく参入でき、かつ高収益が見込める「3つのエントリーモデル」をご紹介します。

これらは共通して「木造であることのメリット」が施主様の利益に直結しやすい用途です。

それぞれの特徴と、アピールすべきポイントを押さえ、営業戦略に組み込んでみてください。

【医療施設】歯科・小児科クリニックは「癒やし」と相性抜群

延床面積30〜80坪程度のクリニック、特に歯科や小児科は、最初に取り組むべき最適な用途です。

なぜなら、これらの施設は「靴を脱いで上がる」ケースが多く、まさに住宅の動線計画や素材選びがそのまま活きるからです。

ドクターは「患者さんの不安や恐怖心を和らげたい」と願っています。

冷たい待合室ではなく、カフェのような温かい雰囲気や、木のおもちゃがあるキッズスペースを提案できれば、非常に喜ばれます。

また、X線室(レントゲン室)の鉛ボード施工などの特殊工事もありますが、基本は住宅工事の応用です。

医療コンサルタントや機器メーカーと連携し、「開業支援」のパートナーとしての地位を築きましょう。

【福祉施設】サ高住・グループホームは「大きな家」として造る

高齢者向け施設(サービス付き高齢者向け住宅、グループホームなど)や保育園は、施設といっても「生活の場」です。

断熱性能による温度管理のしやすさや、転倒しても怪我をしにくい木の床など、居住性能(スペック)が何より重視されます。

規模は100坪〜200坪とやや大きくなりますが、個室が並ぶ間取りは「大きな住宅」と考えれば、決して難しくありません。

準耐火建築物などの法規制への対応が必要になりますが、木造にすることでS造よりも大幅なコストダウンと工期短縮が可能です。

事業収支がシビアな福祉事業者にとって、初期投資を抑えられる木造提案は、喉から手が出るほど魅力的な選択肢となります。

【小規模オフィス】減価償却メリットで経営者の心を掴む

50坪〜100坪程度の自社ビルや小規模オフィス、店舗も狙い目です。

ここで最強の武器となる営業トークが「減価償却」です。

鉄骨造の法定耐用年数が34年であるのに対し、木造は22年。

つまり、利益が出ている企業にとって、木造で社屋を建てることは、短期間で経費計上ができる「節税対策」になるのです。

さらに、近年は「おしゃれなオフィス」が人材採用の必須条件になっています。

「木造のデザイナーズオフィス」を提案することで、採用難に悩む中小企業経営者の課題解決につながります。

構造計算を行い、柱のない広い空間(大スパン)を実現すれば、機能面でもS造に引けを取りません。


非住宅案件を受注・成功させるための実務ポイント

非住宅案件を受注・成功させるための実務ポイント

ターゲットが決まれば、次は実務面の準備です。

住宅と同じ感覚で進めると、法規の壁や現場管理の違いに戸惑い、思わぬトラブルや赤字を招くリスクがあります。

「住宅の延長」とはいえ、非住宅特有のルールや作法が存在することを理解しておく必要があります。

しかし、恐れることはありません。

事前にポイントを押さえ、適切なパートナーやツールを活用すれば十分にクリアできる課題です。

ここでは、受注から引き渡しまでをスムーズに進めるために、特に注意すべき3つの実務ポイントを解説します。

これらをクリアすれば、貴社の対応力は格段に向上するはずです。

防耐火と構造計算のハードルをどう乗り越えるか

非住宅、特に特殊建築物や一定規模以上の建物では、「防耐火規制」と「構造計算」が必須となります。

4号特例の縮小に伴い、木造業界全体で意識が高まっていますが、非住宅ではより高度な知識が求められます。

すべてを自社で解決しようとせず、非住宅に強い構造設計事務所や、防耐火認定を取得している建材メーカーのサポートを積極的に受けることが成功への近道です。

特に構造計算(許容応力度計算)は、意匠設計の早い段階から連携することで、コスト高になる無理な設計を防げます。

信頼できる専門家ネットワークを持っておくことが、事業のリスクヘッジになります。

現場管理と安全書類への対応はゼネコン基準を意識する

非住宅の現場では、施主が企業であるため、より厳格な安全管理や工程管理が求められます。

また、元請けとして入る場合だけでなく、設計事務所案件の施工を受ける場合でも、「グリーンファイル(安全書類)」や詳細な「施工計画書」の提出が必要になるケースが多いです。

現場監督には、住宅現場のような「阿吽の呼吸」ではなく、文書化・可視化された管理能力が求められます。

施工管理アプリ(ANDPADやKizuku等)を活用して業務を効率化すると同時に、非住宅経験のある施工管理者を中途採用したり、外部の講習を活用してスキルアップを図ることが重要です。

しっかりとした管理体制は、施主や設計事務所からの信頼に直結します。

設計事務所やコンサルタントとの連携で「設計施工」の強みを出す

工務店が非住宅を受注するパターンには、自社で設計施工を一貫して請け負う場合と、設計事務所の図面を施工する場合の2つがあります。

利益率を高めるなら「設計施工」が有利ですが、デザインや法適合の難易度が高い場合は、外部の設計事務所と組む「チーム戦」をお勧めします。

特に医療や福祉など専門性が高い分野では、その道のプロであるコンサルタントや設計者とタッグを組むことで、提案の説得力が倍増します。

「施工のプロ」としての意見(コスト調整や納まりの提案)を出しながら、デザインや法規はパートナーに任せる。

この柔軟な体制づくりこそが、持続可能な非住宅事業の鍵となります。


まとめ

工務店が非住宅分野へ参入することは、単なる事業の多角化以上に、これからの時代を生き抜くための重要な生存戦略です。

今回ご紹介した「クリニック」「福祉施設」「小規模オフィス」は、工務店が持つ「木の空間をつくる技術」と「コスト競争力」が最も輝くフィールドです。

いきなり高層ビルを建てる必要はありません。

まずは地域に根ざした身近な施設の木造化から始めてみてください。

重要なのは、「住宅とは違う」と恐れるのではなく、「住宅の良さを非住宅に持ち込む」という視点です。

経営者やドクターも、一人の人間として「居心地の良い場所」を求めています。

そこに、木造ならではの減価償却メリットやコストダウン提案を添えることで、貴社は最強のパートナーになれるはずです。

非住宅木造の世界は、知れば知るほど奥深く、そして大きな可能性に満ちています。

ぜひ本記事をきっかけに、新たな市場への第一歩を踏み出してください。

私たちハウス・ベース株式会社も、その挑戦を全力でサポートいたします。

ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援

非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。

諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。

木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。

ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。

「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための業務支援チームです。

◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出

◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築

【主なサービス内容】

◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等

◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等

◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等

木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。

  • URLをコピーしました!

著者

一級建築士。群馬県出身。芝浦工業大学卒業後、設計事務所・工務店・木構造材メーカー勤務を経て、2015年にハウス・ベース株式会社を起業。事業内容:住宅・建築関連の業務支援。特に非住宅用途の木造化・木質化支援(広報支援・設計支援・実務支援)に注力。木造非住宅オウンドメディア「モクプロ」を運営。

INDEX