【共同住宅】中大規模木造の共同住宅の計画における注意点

【共同住宅】中大規模木造の共同住宅の計画における注意点

近年、脱炭素社会の実現に向けた流れの中で、環境負荷が少なく、持続可能な建築資材としての「木材」が再び注目を集めています。

特に、これまで鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨(S)造が主流だった中大規模の建築物においても、木造化・木質化の動きが活発になっています。

その中でも「共同住宅」は、木造化の可能性を秘めた分野の一つです。

戸建て住宅で培われた技術を活かしつつ、中規模の集合住宅を木造で建設する事例が増えつつあります。

木造は、RC造などに比べて工期を短縮できる可能性や、コストを抑えられるといった事業面でのメリットが期待できるほか、木の持つ温かみが入居者へのアピールにもつながります。

しかし、いざ中大規模の木造共同住宅を計画しようとすると、多くの実務者が特有の課題や不安に直面します。

「戸建てとは違う法規制が難しそう」

「耐火や遮音性能は本当に大丈夫なのか?」

「コストメリットは本当にあるのか?」

こうした疑問や不安は、木造非住宅に挑戦しようとする設計事務所や工務店、建材メーカーの皆様にとって共通のものではないでしょうか。

この記事では、中大規模木造の共同住宅を計画する上で特に注意すべきポイントを、法規制、コスト、設計実務の観点から、できるだけ分かりやすく解説していきます。

INDEX

注目が集まる「木造の共同住宅」その可能性と現状

注目が集まる「木造の共同住宅」その可能性と現状

中大規模建築の分野で「木造」という選択肢が現実味を帯びてきました。

その背景には、法改正による規制緩和や、環境意識の高まり、そして技術の進歩があります。

特に共同住宅という用途は、私たちが日々暮らす「住まい」の集合体であり、木が持つ「温かみ」や「快適性」といった価値を提供しやすい分野です。

これまで共同住宅といえばRC造の「マンション」や軽量鉄骨造の「アパート」が一般的でした。

しかし、中大規模木造の技術が発展した今、木造だからこそ実現できる新しい共同住宅の形が求められています。

ここでは、なぜ今、木造の共同住宅が注目されるのか、その理由と木造ならではの特性について見ていきましょう。

そもそもなぜ今、木造の共同住宅なのか?

今、木造の共同住宅が注目される背景には、大きく分けて3つの理由があります。

一つ目は「環境・社会的な要請」です。

ご存知の通り、世界的にカーボンニュートラル(脱炭素)への取り組みが加速しています。

建築分野も例外ではなく、製造・建設時に多くのCO2を排出する鉄やコンクリートから、成長過程でCO2を吸収・固定する木材へとシフトする流れが強まっています。

国も「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」などを通じて、公共建築物だけでなく民間の建築物(非住宅・中大規模建築)の木造化を後押ししています。

共同住宅もその重要なターゲットの一つです。

二つ目は「事業性」です。

詳細は後述しますが、木造はRC造やS造と比較して、建物の重量が軽いという特徴があります。

これにより、基礎工事や地盤改良にかかるコストを削減できる可能性があります。

また、税務上の法定耐用年数がRC造(47年)やS造(34年)に比べて木造(22年)は短く設定されています。

これは、毎年の減価償却費を多く計上できることを意味し、不動産事業における節税効果(投資回収の早期化)が期待できるため、事業主にとって大きなメリットとなります。

三つ目は「技術の進歩」です。

耐火性能や遮音性能など、共同住宅に求められる厳しい基準をクリアできる木造の建材や工法が開発されてきたことも大きな要因です。

これにより、これまでは難しかった都市部での木造3階建て、あるいはそれ以上の規模の共同住宅も技術的に可能になってきました。

中大規模木造ならではのメリットとは

中大規模建築を木造で計画する場合、戸建て住宅とは異なる、規模の大きな建築物特有のメリットが生まれます。

最大のメリットは、前述の通り「基礎工事のコストダウン」の可能性です。

建物全体の重量が軽くなることは、地盤への負荷が減ることを意味します。

特に地盤が比較的軟弱な土地で共同住宅を計画する場合、RC造などでは大規模な杭工事や地盤改良が必要になるケースも少なくありません。

木造であれば、これらの工事を簡略化、あるいは小規模に抑えられる可能性があり、トータルでの建設コスト削減に大きく寄与します。

次に「工期の短縮」です。

木造建築、特にプレカット(工場で木材をあらかじめ加工する)技術を活用した場合は、現場での作業が効率化されます。

RC造のようにコンクリートの打設や養生(固まるのを待つ)期間が不要なため、天候に左右されにくい点も合わせ、現場での組み立て作業をスピーディーに進めることができます。

工期が短縮されれば、その分、建設中のコスト(人件費など)が抑えられるだけでなく、事業主にとっては早期に家賃収入を得られるというメリットにもつながります。

さらに、設計面では「プランの自由度」も挙げられます。

もちろん構造的な制約はありますが、RC造の壁式構造などと比較した場合、柱と梁で構成する木造軸組工法などは、将来的な間取りの変更やリノベーションにも対応しやすいという柔軟性を持っています。

計画前に知っておきたい木造の特性

多くのメリットがある一方で、木造の共同住宅を計画する際には、木材特有の「特性」を正しく理解し、設計や施工に活かす必要があります。

この特性を無視してしまうと、クレームや不具合の原因となりかねません。

まず「遮音性」です。

木材はRCやS造の部材に比べ、軽く、音(特に重量床衝撃音など)を通しやすいという特性があります。

戸建て住宅であれば許容される音も、共同住宅では上下階や隣戸との騒音トラブルに直結します。

そのため、計画段階で「界壁(住戸間の壁)」や「界床(住戸間の床)」の遮音性能をいかに確保するかが、木造共同住宅の品質を左右する最も重要なポイントの一つとなります。

法規制をクリアするだけでなく、入居者が快適に暮らせる水準の性能を確保するための設計・施工上の工夫が求められます。

次に「耐火性」です。

木は「燃える」というイメージがありますが、一定の太さ(断面)を持つ木材は、火災時に表面が炭化することで内部への燃焼の進行を防ぐ「燃えしろ」という性質も持っています。

しかし、都市部での共同住宅には厳しい耐火性能が求められます。

この基準をいかにクリアするかは、法規制のセクションで詳しく解説しますが、木造の特性を理解した上での防火設計が不可欠です。

最後に、木材は湿気によって伸縮したり、反ったりする可能性があります。

適切な乾燥材の使用や、結露を防ぐ設計・施工を行うことが、建物の耐久性を保つ上で重要になります。

【最重要】木造の共同住宅における法規制の壁と対策

【最重要】木造の共同住宅における法規制の壁と対策

中大規模の木造共同住宅を計画する上で、実務者を最も悩ませるのが「法規制」、特に「防火・耐火」と「遮音」に関する基準です。

戸建て住宅とは比較にならないほど厳しい基準が設けられており、ここをクリアできなければ計画そのものが成り立ちません。

特に都市部では、防火地域・準防火地域といった指定がされていることが多く、建物の規模や階数に応じて「耐火建築物」や「準耐火建築物」とすることが求められます。

木造でこれらの基準を満たすためには、どのような仕様や工法を選択すればよいのでしょうか。

また、共同住宅特有の「界壁」の遮音問題など、設計者が直面する具体的な課題と、その対策について分かりやすく解説します。

「耐火」の基準:耐火建築物と準耐火建築物

共同住宅のように、不特定多数ではないものの複数の世帯が暮らす建物は、火災時の安全確保が非常に重要です。

そのため、建築基準法では建物の規模や立地(防火地域など)に応じて、厳しい耐火性能が求められます。

まず理解すべきは「耐火建築物」と「準耐火建築物」の違いです。

簡単に言えば、「耐火建築物」は主要構造部(壁、柱、床、梁など)に火災が終了するまで(例えば1時間など)倒壊せず、延焼を防ぐ性能が求められる、最も厳しい基準です。

一方、「準耐火建築物」は、火災の延焼を一定時間抑制し、避難時間を確保することを目的とした基準です。

従来、都市部の3階建て以上の共同住宅などは、原則として耐火建築物とすることが求められ、木造での実現はコストや技術的なハードルが非常に高いものでした。

しかし、法改正や技術開発により、一定の条件を満たすことで「準耐火建築物」として建設できる道が拓かれました。

例えば、木造でも石膏ボードなどで木部を覆う「被覆型」や、木材の断面を大きくして燃えしろを確保する「燃えしろ設計」などにより、必要な耐火性能を確保する工法が大臣認定などで認められています。

計画地の法規制と建物の規模を照らし合わせ、どの基準をクリアする必要があるのかを最初に確認することが、木造共同住宅計画の第一歩となります。

「遮音」の基準:住戸間の界壁で失敗しないために

木造共同住宅の快適性を左右する最大の要因といっても過言ではないのが「音」の問題です。

特に、隣の住戸からの話し声やテレビの音(空気伝播音)や、上階からの足音(床衝撃音)は、入居後のクレームに直結します。

建築基準法では、共同住宅の住戸と住戸の間を区切る壁、いわゆる「界壁」について、一定の遮音性能を持つことを義務付けています。

この基準を満たすためには、告示(国が定める仕様)に示された仕様(例:石膏ボードを両面に二重貼りし、中間にグラスウールを充填する等)を採用するか、または大臣認定を受けた高い遮音性能を持つ壁構造を使用する必要があります。

しかし、注意したいのは「法律の基準=入居者の満足」とは限らない点です。

法基準はあくまで最低限のラインであり、特に木造の場合は、RC造に比べて音が伝わりやすい特性を考慮し、基準以上の性能を目指す設計が望まれます。

例えば、界壁だけでなく、音の伝わりやすい床や天井、さらにはコンセントボックス周りなど、音の「抜け道」となりやすい部分の施工品質にも細心の注意を払う必要があります。

遮音性能は、一度建ててしまうと後からの改修が非常に困難な部分です。

計画段階での十分な検討が不可欠です。

「木3共」とは? 3階建て特有の注意点

都市部の敷地を有効活用するために、木造3階建ての共同住宅のニーズは高まっています。

この「木造3階建て共同住宅」は、通称「木3共(もくさんきょう)」と呼ばれ、計画上、特に多くの注意点が存在します。

「木3共」は、多くの場合「準耐火建築物」として計画されます。

法規制の緩和により、耐火建築物としなくても建設が可能になりましたが、そのためにはいくつかの厳しい条件をクリアしなければなりません。

例えば、代表的なものとして「避難上有効なバルコニーの設置」や、「主要な廊下や階段を屋外(外気に開放)に設けること」、さらに「敷地内に3m(緩和規定あり)の通路を確保すること」などが求められる場合があります。

特に「敷地内通路3m」の規定は、敷地が狭い都市部では計画の可否を左右する大きな要因となります。

建物を建てられる面積が想定より小さくなってしまい、事業計画そのものを見直さなければならないケースもあります。

また、3階建てになると構造計算(許容応力度計算など)が必須となり、2階建て以下の場合と比べて設計や確認申請のプロセスも複雑になります。

これらの「木3共」特有の規制をあらかじめ理解し、設計に織り込んでおくことが非常に重要です。

コストで比較!木造の共同住宅の経済性

コストで比較!木造の共同住宅の経済性

中大規模建築を木造化する際、設計事務所や工務店が事業主から最も問われるのが「コスト」です。

「木造は安い」というイメージもありますが、それは本当でしょうか。

確かに、RC造やS造と比較した場合、木造にはコスト面での優位性があります。

しかし、それは単純な坪単価だけでの比較ではありません。

建物の重量が軽くなることによる基礎工事への影響や、工期の短縮、さらには事業開始後の税務上のメリット(減価償却)まで、トータルで考える必要があります。

ここでは、木造共同住宅の「経済性」について、初期コストからランニングコストまで、実務者が知っておくべきポイントを解説します。

RC造・S造と比べた場合の初期コスト

共同住宅を計画する際、構造を木造、RC造、S造のどれにするかで初期コスト(建設費)は大きく変動します。

一般的に、同じ床面積で比較した場合、建設費本体の坪単価は、木造が最も安価になる傾向があります。

次いでS造、そして最も高価になるのがRC造です。

ただし、これはあくまで一般的な傾向です。

木造であっても、先述した「耐火建築物」の仕様を求められる場合、木部を耐火性能のある材料で厚く被覆したり、特殊な認定工法を採用したりする必要があり、コストは大幅に上昇します。

この場合、S造やRC造とコストが逆転するケースも珍しくありません。

「木造3階建て共同住宅」を「準耐火建築物」の仕様(いわゆる木3共)で計画できるかどうかが、初期コストを抑える上で大きな分岐点となります。

また、昨今の資材価格の変動も無視できません。

木材価格(ウッドショック)が急騰した時期もあれば、逆に鉄骨価格が高騰する時期もあります。

計画時の社会情勢によって、各構造のコストバランスは変動するため、最新の市場動向を注視し、複数の選択肢を比較検討することが重要です。

単に「木造だから安い」と考えるのではなく、求められる性能とコストのバランスを見極める必要があります。

軽量化がもたらす基礎・地盤改良費の削減効果

木造共同住宅のコストメリットを語る上で、建設費本体と同じくらい重要なのが「基礎・地盤改良費」です。

木造の最大の利点の一つは、その「軽さ」にあります。

木造建築の重量は、RC造の約1/5、S造の約1/2~1/3程度とも言われています。

建物が軽ければ、それを支える基礎にかかる負荷も小さくなります。

RC造やS造では大規模な杭工事や地盤改良が必要となるような軟弱な地盤であっても、木造であれば、より簡易な基礎(布基礎やべた基礎)で対応できたり、地盤改良の規模を大幅に縮小できたりする可能性があります。

特に、都心部の狭小地や、大型重機の搬入が難しい敷地では、大掛かりな基礎工事はコストと工期の両面で大きな負担となります。

木造を採用することで、この基礎工事に関わる費用を大きく削減できる可能性がある点は、事業主にとって非常に大きな魅力となります。

建物の「上物(うわもの)」の坪単価だけで比較するのではなく、地盤調査の結果を踏まえ、基礎工事費まで含めた「総工費」で比較検討することが、木造の経済性を正しく評価する鍵となります。

減価償却で見る木造の事業メリット

共同住宅は「事業」として建設されることがほとんどです。

そのため、建設時の初期コストだけでなく、事業開始後の「収益性」も極めて重要になります。

この点において、木造は税務上の「減価償却」という側面で大きなメリットを持っています。

減価償却とは、建物の取得費用を、その使用可能期間(法定耐用年数)にわたって分割し、毎年「経費」として計上していく会計処理のことです。

この「法定耐用年数」が、構造によって異なります。

RC造が47年、重量鉄骨造が34年であるのに対し、木造は22年と、非常に短く設定されています。

耐用年数が短いということは、建物価格という大きな資産を、より短期間で経費として計上できることを意味します。

毎年計上できる「減価償却費」という名の経費が大きくなるため、その分、不動産所得(家賃収入から経費を引いたもの)を圧縮でき、結果として所得税や法人税の負担を軽減する効果(節税効果)が期待できます。

「耐用年数が短い=建物が長持ちしない」という意味ではなく、あくまで税務上のルールですが、この仕組みは、事業主のキャッシュフローを改善し、投資の早期回収を後押しする大きなメリットとして認識されています。

設計・プランニングで押さえるべき木造の共同住宅の勘所

設計・プランニングで押さえるべき木造の共同住宅の勘所

法規制やコストの課題をクリアした上で、次に取り組むのが具体的な「設計・プランニング」です。

木造共同住宅の設計は、戸建て住宅の延長線上で考えると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。

中大規模木造特有の構造的な制約や、共同住宅としての機能性(動線やプライバシー)を両立させる必要があります。

例えば、木造で大スパン(柱のない広い空間)を実現する方法や、法規制で求められる「敷地内通路」を確保しながら、いかに効率的に住戸を配置するかなど、設計者の腕の見せ所とも言えます。

ここでは、木造共同住宅のプランニングにおいて、特に実務者が押さえておくべき「勘所」を解説します。

敷地内通路と建物の配置計画

木造共同住宅の設計で、プランニングの初期段階に最も大きな影響を与えるのが「敷地内通路」の確保です。

特に「木造3階建て共同住宅(木3共)」では、火災時の消防活動や避難のために、建物の周囲に一定の幅(原則3mなど、自治体や緩和規定により異なる)の通路を設けることが求められる場合があります。

この規定は、敷地を最大限に活用したい都市部の計画において、非常に大きな制約となります。

例えば、敷地境界線から3mセットバック(後退)させると、建物を建てられる有効面積(建築可能面積)が大幅に減ってしまい、計画していた住戸数が確保できなくなる可能性があります。

結果として、事業収支が合わなくなり、計画そのものが見直しになることも少なくありません。

そのため、計画の初期段階で、所轄の行政庁や消防と「敷地内通路がどの程度必要なのか」「緩和規定を適用できないか」を綿密に協議・確認することが不可欠です。

この通路計画を前提とした上で、残された敷地の中に、いかに効率よく、かつ魅力的な住戸や共用部(廊下・階段など)を配置していくかが、設計者の最初の腕の見せ所となります。

木造に適したスパンとプランニング

木造建築は、柱と梁で空間を構成するのが基本です。

この「柱(はしら)」と「柱(はしら)」の間隔、あるいは「梁(はり)」が飛ぶ距離(スパン)には、経済的・構造的に「適した寸法」があります。

一般的に、木造(在来軸組工法など)で経済的に計画できるスパンは、4m程度(約2間)までとされることが多いです。

もちろん、CLT(直交集成板)や大断面集成材といった新しい木材技術を使えば、RC造やS造のように10mを超える大スパンの空間を作ることも可能です。

しかし、共同住宅のような比較的小さな空間(住戸)の集合体の場合、あえて高コストな大スパン技術を使わずとも、木造の経済的なスパンモジュール(寸法ルール)に合わせてプランニングを行う方が合理的です。

例えば、3.64m×3.64mのグリッド(格子)を基本に、住戸のプランを構成していくといった設計手法です。

木造の構造特性に合わせた「無理のない」設計を行うことで、構造的な安定性を確保しつつ、コストを最適化することができます。

木造の特性を無視してRC造と同じようなプランを当てはめようとすると、不必要な部分にコストがかかったり、構造的に無理が生じたりするため、注意が必要です。

構造計算と申請プロセスのポイント

木造2階建て以下の一定規模の建物とは異なり、中大規模木造や3階建ての共同住宅では、必ず「構造計算(許容応力度計算など)」が必要になります。

この構造計算によって、建物が地震や台風などの力に対して安全であることを証明しなければなりません。

木造の構造計算は、RC造やS造とは異なる専門的な知識と経験が求められます。

特に、共同住宅では住戸を区切る壁や開口部(窓やドア)が不規則な配置になりがちで、力の流れを適切に評価し、耐力壁をバランスよく配置する設計が難しくなります。

このため、意匠設計者と構造設計者が、計画の初期段階から密に連携を取り合うことが不可欠です。

意匠デザインを優先するあまり、構造的に無理のある計画を進めてしまうと、後で大幅な設計変更やコストアップにつながりかねません。

また、これらの構造計算書を含む図面一式を揃えて提出するのが「建築確認申請」です。

中大規模木造の申請は、審査項目が多く、内容も複雑になるため、一般的な住宅に比べて審査に時間がかかる傾向があります。

特に、耐火・準耐火の仕様や、避難通路の確保など、法解釈が分かれる部分については、事前に審査機関や特定行政庁と協議を重ね、認識をすり合わせておくことが、スムーズな申請プロセスを実現する鍵となります。

木造共同住宅を成功させるパートナー選び

木造共同住宅を成功させるパートナー選び

ここまで、中大規模木造共同住宅の計画における様々な注意点を解説してきました。

法規制、コスト、設計と、クリアすべきハードルは決して低くありません。

これらの複雑な課題を乗り越え、プロジェクトを成功に導くためには、事業主や設計者、施工者、そして建材メーカーといった関係者が密に連携することが不可欠です。

特に、木造非住宅はまだ新しい分野であり、誰もが十分な経験を持っているわけではありません。

だからこそ「誰と組むか」というパートナー選びが、プロジェクトの成否を分けると言っても過言ではないのです。

ここでは、どのような視点でパートナーを選定すべきか、そのポイントを解説します。

木造に強い設計事務所の見極め方

中大規模木造の共同住宅を計画する上で、中核となるのが設計事務所です。

しかし、木造に強いと言っても、その得意分野は様々です。

戸建て住宅の設計経験は豊富でも、共同住宅に求められる耐火・遮音・法規制の知識や、木3共のような複雑な計画の経験がなければ、プロジェクトを適切にリードすることは難しいでしょう。

パートナーとなる設計事務所を見極める際は、まず「中大規模木造(非住宅含む)の実績」を確認することが重要です。

特に「共同住宅」や「3階建て以上」の木造建築を手掛けた経験があるかどうかは、大きな判断材料となります。

実績があれば、法規制の解釈や、行政協議の進め方、木造特有のディテール(納まり)に関するノウハウを蓄積している可能性が高いからです。

また、コスト意識も重要です。

木造のメリットを最大限に引き出し、事業主の要望(予算)に応じたコストコントロールができるかどうかも見極めたいポイントです。

さらに、構造設計事務所との連携がスムーズか、新しい木材技術や建材(CLT、集成材、高性能な遮音材など)に対する知見を持っているかも、設計事務所の能力を測る上で重要な指標となります。

施工実績が豊富な工務店・建設会社

どれだけ素晴らしい設計図が描けても、それを形にする「施工」の品質が伴わなければ、建物は成立しません。

特に木造共同住宅は、施工の精度が「遮音性能」や「耐火性能」、「耐久性」に直結する、非常にデリケートな建築物です。

例えば、遮音性能を確保するために設計図で指定された界壁の仕様も、現場の職人がその重要性を理解せず、隙間(音の抜け道)のある施工をしてしまえば、性能は全く発揮されません。

耐火被覆の施工不備も同様です。

したがって、パートナーとなる工務店・建設会社には、中大規模木造、特に共同住宅の施工実績が求められます。

戸建て住宅の施工経験だけでは、共同住宅に求められる高い施工管理レベルや、複雑な法規への対応は困難な場合があります。

木3共や準耐火建築物の施工経験があり、木造の特性(伸縮や反り)を理解した上で、精度の高い施工ができる技術力を持っているかどうか。

そして、設計事務所や建材メーカーと円滑にコミュニケーションを取り、現場の課題を解決できる管理能力があるかどうかが、重要な選定ポイントとなります。

最新の建材・工法に詳しいメーカーとの連携

木造共同住宅の実現は、近年の「建材」と「工法」の技術革新によって支えられています。

耐火性能の高い石膏ボード、遮音性能に優れた床材や間仕切りシステム、強度と安定性を両立させた集成材やLVL(単板積層材)、そしてCLTのような新しい木質材料。これらの高機能な建材なくして、都市部での木造共同住宅は成り立ちません。

だからこそ、プロジェクトの早期段階から、これらの最新建材・工法に詳しいメーカーと連携することが非常に重要になります。

建材メーカーや木材メーカーは、自社製品の性能を最大限に引き出すための技術情報や、法規(大臣認定など)に関する専門知識、そして施工上の注意点といった、設計事務所や工務店だけではカバーしきれない「生きたノウハウ」を持っています。

例えば、遮音性能で悩んだ時に、最適な床構造システムを提案してくれたり、耐火基準をクリアするための経済的な被覆方法をアドバイスしてくれたりするかもしれません。

信頼できるメーカーの知見を取り入れることは、法規制のクリアとコストダウン、品質の確保を同時に達成するための強力な武器となります。

まとめ

 まとめ  木造非住宅 木造共同住宅

中大規模木造の共同住宅は、脱炭素社会への貢献、事業主のコストメリット(初期費用・税務)、そして入居者への快適な住環境の提供といった、多くの可能性を秘めた分野です。

しかし、その計画は戸建て住宅の延長線上にあるものではなく、特有の難しさや不安が伴います。

今回解説したように、成功の鍵は、まず「法規制」を正しく理解することにあります。

特に「耐火性能(耐火・準耐火)」と「遮音性能(界壁・界床)」は、共同住宅の根幹をなす部分です。

木造3階建て(木3共)特有の敷地内通路などの規制も含め、これらのハードルをいかにコストバランス良くクリアするかが、設計者の腕の見せ所となります。

また、木造の「軽さ」がもたらす基礎工事費の削減効果や、減価償却の短さといった「経済性」を事業主に正しく伝え、理解してもらうことも重要です。

何より、これらの複雑なプロジェクトは、一社単独で完結できるものではありません。

木造非住宅の計画・設計ノウハウを持つ「設計事務所」、木造共同住宅の施工品質を担保できる「工務店・建設会社」、そして、耐火・遮音などの課題を解決する最新技術を持つ「建材・木材メーカー」。

これら信頼できるパートナーとの強固な連携こそが、実務者が抱える不安を解消し、プロジェクトを成功へと導く最大の力となります。

この記事が、皆様の木造共同住宅プロジェクトの一助となれば幸いです。


ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援

非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。

諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。

木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。

ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。

「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための業務支援チームです。

◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出

◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築

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◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等

◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等

◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等

木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。

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著者

一級建築士。群馬県出身。芝浦工業大学卒業後、設計事務所・工務店・木構造材メーカー勤務を経て、2015年にハウス・ベース株式会社を起業。事業内容:住宅・建築関連の業務支援。特に非住宅用途の木造化・木質化支援(広報支援・設計支援・実務支援)に注力。木造非住宅オウンドメディア「モクプロ」を運営。

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