
「木造非住宅」のプロジェクトが、増えています。
脱炭素社会への流れ、法改正の後押しもあり、これまで鉄骨造やRC造が当たり前だった中・大規模建築でも、木造化・木質化への挑戦がスタンダードになりつつあります。
しかし、その一方で、こんな「実務の壁」に直面している設計事務所や工務店、建設会社の担当者さまも多いのではないでしょうか?
「CLTを使いたいが、どのメーカーに頼めばいいのか分からない」
「大スパンを木で飛ばしたい。最適な集成材メーカーはどこ?」
「特殊な接合部。構造計算と金物の調達、どう進めれば…?」
「見積もりを取ったが、これが適正価格なのか判断がつかない」
木造非住宅のプロジェクトは、従来の木造住宅とはスケールも、求められる技術も、そして「材料」も異なります。
特にCLT(直交集成板)や大断面集成材、高性能な接合金物は、供給できるメーカーが限られており、その選定がプロジェクトのコスト、納期、さらには設計の自由度までを左右すると言っても過言ではありません。
2025年の最新情報を基に、木造非住宅プロジェクトを成功に導くための「主要メーカー」を徹底ガイドします。
CLT、大断面集成材、接合金物—。
それぞれの分野で鍵となるプレイヤーは誰なのか。
彼らをどう選び、どう付き合っていくべきか。
単なるメーカーのカタログ紹介ではありません。
筆者は、木構造メーカーの営業担当を経験しており、木造非住宅の実務に精通しています。
その経験則より、木構造業界の実情をわかりやすく解説します。
構造設計力や技術力、コスト感など、木造非住宅の木構造の依頼先を探している方向けの、実践的な「道しるべ」です。

なぜ今、木造非住宅で「メーカー選定」が最重要なのか?

木造非住宅への挑戦が広がる今、なぜ「メーカー選定」がこれほどまでに重要視されるのでしょうか。
それは、従来の住宅スケールとは異なる、非住宅特有の「課題」がそこにあるからです。
設計の初期段階で「誰と組むか」を誤ると、後工程で大きなコスト増や納期遅延、最悪の場合は計画そのものの頓挫にも繋がりかねません。
ここでは、その背景にある3つのリアルな理由を解説します。

増加する木造非住宅とサプライチェーンの課題
「木造化」は、もはや一部の先進的な取り組みではなく、社会全体のスタンダードになろうとしています。
しかし、その需要の急増に対して、CLTや大断面集成材といった「特殊な木質建材」を安定的に供給できるメーカーの数は、まだ限られているのが現状です。
特に、大規模なプロジェクトで求められる品質と量を同時に満たせるサプライチェーンは、決して盤石ではありません。
ウッドショックのような世界的な需給バランスの崩壊は、特殊な材料であればあるほど、その影響を強く受けます。
この「需要と供給のギャップ」こそが、プロジェクトの最初のつまずきポイントになり得るのです。
コストと納期を左右する「調達力」のリアル
言うまでもなく、材料費は建築コストの大部分を占めます。
特にCLTや大断面集成材は、プロジェクト全体の予算に与えるインパクトが非常に大きい部材です。
問題は、その価格が「定価」として明確に決まっているわけではなく、市況やメーカーの稼働状況、発注ロット、輸送距離によって大きく変動することです。
つまり、どのメーカーから、どのルートで調達するかという「調達力」そのものが、見積もりの精度と事業の採算性に直結します。
信頼できるメーカーとの強固なパイプラインを構築できているかどうかが、そのまま企業の競争力となる時代なのです。
設計の自由度を高めるメーカーとの「早期連携」
「こんな意匠を実現したい」「この大スパンを木で飛ばしたい」。
設計者のこうした思いを形にするのが、メーカーの技術力です。
しかし、木材は工業製品でありながら、樹種や製造ラインによって「できること・できないこと」が明確に存在します。
設計がすべて固まった後でメーカーに相談した結果、「そのサイズは製造できない」「その加工はコストが跳ね上がる」といった事態になるのは避けたいところです。
設計の「早期連携」、つまり基本計画の段階でメーカーの技術者と対話することが、無駄のない設計とコストの最適化、そして設計の自由度を最大限に高めるための鍵となります。
【CLT編】国内主要メーカー徹底比較!特徴と選び方

CLT(直交集成板)は、その高い強度、断熱性、そして施工性の良さから、木造非住宅の「主役」とも言える材料です。
しかし、一口にCLTと言っても、メーカーによって製造可能なパネルサイズ、得意な樹種、そして設計サポート体制は大きく異なります。
ここでは、国内のCLT市場を牽引する代表的な3社をピックアップし、その特徴と「どう選ぶべきか」を解説します。

銘建工業:圧倒的シェアと技術力
国内CLTのパイオニアであり、圧倒的な生産量とシェアを誇るのが銘建工業です。
岡山県に構える巨大な製造拠点は、まさにCLTの「安定供給」を支える心臓部と言えます。
JAS認証に基づく高い品質管理と、大規模プロジェクトで培われた豊富な実績は、発注者にとって何よりの「安心感」に繋がります。
特に、標準化された大型パネルを大量に必要とするプロジェクトや、供給の安定性を最重要視する場合には、第一の選択肢となるでしょう。
技術資料や設計サポートの体制も充実しており、CLT活用の「王道」をいくメーカーです。
山佐木材:地域材活用と設計サポート
鹿児島県に拠点を置く山佐木材は、九州産の地域材を積極的に活用したCLT製造で知られています。
同社の強みは、単なる材料供給に留まらず、CLTと在来軸組工法、あるいは大断面集成材を組み合わせた「ハイブリッド木構造」の提案力にあります。
特に設計事務所との協業事例が多く、意匠性の高い建築や、木材の「見せ方」にこだわりたいプロジェクトで力を発揮します。
構造設計のサポート体制も手厚く、「こんな建物を木で作りたい」という設計者の思いに、技術で応えてくれるパートナーとなり得る存在です。
サイプレス・スナダヤ:異樹種CLTと特殊加工
愛媛県に拠点を置くサイプレス・スナダヤは、その名の通り「ヒノキ(Cypress)」の扱いに長けたメーカーです。
他社では珍しい「ヒノキCLT」や「スギ・ヒノキのハイブリッドCLT」など、意匠性や耐久性に優れた異樹種CLTの製造に強みを持ちます。
また、曲面加工や高精度なプレカットなど、高い「木工技術」を活かした特殊加工への対応力も魅力です。
比較的小回りの利く生産体制を活かし、規格品では満足できない、よりチャレンジングな設計を実現したい場合の有力な相談先となるでしょう。
【大断面集成材編】スパンとコストを実現するパートナー探し

体育館や講堂、大型倉庫などで求められる「大スパン」。
これを木造で実現するための主役が、大断面集成材(GLT)です。
CLT以上に、メーカーごとの製造設備や技術力によって「得意なスパン・形状・樹種」が大きく異なります。
ここでは、プロジェクトの要求性能とコストに最適なメーカーを見極めるための「3つの軸」を解説します。

大スパン・特殊形状に強いメーカーの見極め方
20メートルを超えるような長大なスパンや、アーチ、トラスといった特殊な形状。
これらを実現するには、大型のプレス機や高周波接着設備、そして何よりも豊富な実績とノウハウが不可欠です。
対応できるメーカーは国内でも限られてきます。
メーカー選定の際は、単に「製造可能」というだけでなく、過去にどのような建物の、どの部分で、どれくらいの規模の部材を納入したかという「実績」を必ず確認しましょう。
特に、湾曲材や複雑な仕口加工が求められる場合は、メーカーの技術者が設計の初期段階からプロジェクトに参加できる体制があるかどうかも重要な判断基準となります。
コストと納期で選ぶ地域密着型メーカーの活用
すべての非住宅が、超大スパンを必要としているわけではありません。
中規模の店舗や事務所、福祉施設などであれば、全国規模の大手メーカーではなく、地域の中堅集成材メーカーと連携するメリットが大きくなります。
最大の利点は「輸送コスト」の削減です。
重量物である大断面集成材は、輸送距離がコストに直結します。
また、近隣のメーカーであれば、現場の状況に合わせたきめ細やかな納品スケジュールや、万が一の際の迅速な対応も期待できます。
地域産材を活用することで、各種補助金の対象となる場合もあり、コストと納期の両面で有利に働くケースは少なくありません。
樹種(スギ、マツ、ヒノキ)別の得意メーカー
大断面集成材は、使用する樹種によって、強度、重量、コスト、そして「見た目(意匠)」が全く異なります。
強度が高く大スパンに向くが重く高価になりがちな「ベイマツ」。
軽量でコストを抑えやすく、国内での調達が容易な「スギ」。
意匠性に優れ、耐久性も期待できる「ヒノキ」。
各メーカーには、それぞれ「得意な樹種」や「JAS認証を取得している樹種」があります。
設計上どの樹種を使いたいのか、あるいはコスト優先で樹種を問わないのか、プロジェクトの方針を明確にした上で、その要求に最も応えられるメーカーを選定することが重要です。
【接合金物・工法編】構造の可能性を広げる技術

木構造の性能は「接合部」で決まると言われるほど、金物の選定は重要です。
特に、大きな力がかかる非住宅建築では、接合金物が構造の安全性、コスト、そして「意匠(金物を隠すか、見せるか)」までを決定づけます。
ここでは、代表的な工法システムから、メーカー独自の金物まで、その選定のポイントとサポート体制の重要性を解説します。

システム化された金物工法(SE構法など)の利点と注意点
木構造の経験が比較的浅い設計事務所や工務店にとって、構造設計サポートからプレカット、金物供給までがワンストップで提供されるシステム化された工法(例:SE構法)は、非常に強力な選択肢となります。
部材と金物の品質が担保されており、構造的な「安心感」を得やすいのが最大のメリットです。
専用CADとの連携による設計の効率化も期待できます。
一方で、システム化されているがゆえの「仕様の制約」や「コスト構造」については、採用前に十分な理解が必要です。
設計の自由度と、パッケージ化された安心感とのバランスを見極める必要があります。
独自開発のオリジナル金物を持つメーカーの選定
システム化工法とは別に、独自の接合技術を開発・販売している金物メーカーも多数存在します。
これらの金物は汎用性が高く、設計者が「適材適所」で使い分けることで、より合理的でコストパフォーマンスの高い接合部設計が可能になります。
ただし、その性能を最大限に引き出すには、設計者自身が金物の特性を理解し、適切に構造計算に組み込む必要があります。
メーカーが提供する技術資料の充実度や、個別の技術相談にどこまで応えてくれるかが、選定の重要なポイントとなります。
実務で差がつく「技術サポート体制」の比較
最終的に、プロジェクトの円滑な進行を左右するのは「人」のサポートです。
設計段階で「この納まりは可能か?」「コストを抑える代替案はないか?」といった疑問に、迅速かつ的確に答えてくれる技術担当者の存在は非常に貴重です。
また、施工段階で現場から生じる予期せぬ問い合わせにも、すぐに対応してくれる体制が整っているか。
電話やメールのレスポンスの速さ、地域ごとの営業・技術担当者の配置状況など、「製品」だけでなく、その背後にある「サポートの質」こそが、実務で本当に頼りになるメーカーかどうかを見極める最大のポイントです。
失敗しないための発注術!元メーカー担当者が語る「上手な付き合い方」

CLT、大断面集成材、金物。
各分野の主要メーカーが分かったところで、最後に最も重要な「実践テクニック」をお伝えします。
優れたメーカーも、彼らを「味方」につけなければ、その力は半減してしまいます。
筆者は、木構造メーカーの営業担当を経験しており、木造非住宅の実務に精通しています。
その経験則より、メーカー担当者の視点に立ち、「こういう風に相談・発注してくれると、ベストな提案ができます」という本音を、3つのコツとして解説します。

設計のどの段階で相談するのがベスト?
メーカー担当者が口を揃えるのは、「できるだけ早く、しかしラフでも良いからプランが固まった段階で」というものです。
具体的には「基本計画」の終了時点がベストタイミングです。
「このスパンを木で飛ばしたい」「この壁にCLTを使いたい」といった具体的な要望と、簡単な平面図や立面図がある状態。
この段階で相談をもらえれば、メーカーが持つ部材の規格や製造ラインの特性に合わせた「最も効率的で、コストのかからない設計」を逆提案できます。
すべてが確定した後では、オーバースペックな設計や、製造不可能な部材が含まれている可能性があり、その「手戻り」が最大のコストアップ要因となるのです。
コストダウンに効く「見積もり依頼」のコツ
「相見積もり」は、適正価格を知る上で重要です。
しかし、単に複数のメーカーに同じ図面を送り、「一番安いところ」を探すだけの方法は、メーカーの疲弊を招くだけで、良い結果を生みません。
「本気の」見積もりを引き出すコツは、情報を「明確」にすることです。
必要な部材リスト(材積)はもちろん、①希望納期、②現場の搬入条件(トレーラーが入れるか、など)、③どこまでの加工を求めるか(プレカットの有無、仕口加工の精度など)を、全社共通の仕様として明示すること。
比較の土俵を揃えることで、初めて「真にコストパフォーマンスの高い」提案が見えてきます。
トラブル回避!納期と品質を確保する発注テクニック
木材は工業製品ですが、同時に「生き物」でもあります。
乾燥や加工には時間がかかり、急な増産は困難です。
最大のトラブルである「納期遅れ」を避けるために、発注時に必ず確認すべきは、「JAS認証の有無」と「工場の生産キャパシティ」です。
特に、他のプロジェクトと納期が重なっていないかは、それとなく確認しておきたいところです。
また、図面や仕様書はもちろん重要ですが、それ以上に、日頃からの担当者間での密なコミュニケーションが、万が一のトラブル(輸送中の破損、品質の微細なバラつき等)を迅速に解決する、最大のリスクヘッジとなります。
まとめ:木造非住宅の成功は「適材適所」のメーカー選定から

今回の記事では、2025年の最新情報を基に、木造非住宅プロジェクトの成否を握る「CLT」「大断面集成材」「接合金物」の主要メーカーと、その賢い選び方・付き合い方について、実務的な視点から解説してきました。
おさらいすると、重要なポイントは以下の通りです。
- メーカー選定は「早期」に: 設計が固まる前の「基本計画」段階でメーカーに相談することが、コストと設計自由度を両立させる鍵です。
 - CLTは「安定供給」と「得意分野」を見極める: 安定供給力か、特定の技術・樹種か、プロジェクトの目的に合わせて選びます。
 - 大断面は「実績」と「輸送コスト」で選ぶ: 大スパン・特殊形状は「実績」を、中規模案件は「地域密着型メーカー」の活用を検討します。
 - 金物は「サポート体制」を重視: システム化工法の安心感か、オリジナル金物の自由度か。どちらを選ぶにせよ、実務を支える「技術サポートの質」が決め手です。
 - 「本気の」相談で味方につける: 設計意図や工事費のコスト感などの「明確な依頼」が、メーカーのベストな提案を引き出します。
 
結局のところ、木造非住宅の成功とは「適材適所」に尽きます。
それは木材の使い方だけでなく、プロジェクトのパートナーとなる「メーカー選び」においても全く同じです。

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