【イベント】大阪・関西万博の木造建築が示す非住宅の未来

【イベント】大阪・関西万博の木造建築が示す非住宅の未来

2025年、日本の建築業界、特に木造非住宅市場に関わるすべての実務者にとって、決して見過ごすことのできない一大イベントが開催されました。

それが「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」です。

「万博なんて、ただのお祭りだろう?」そう思われるかもしれませんが、今回の万博は、これまでのものとは一線を画します。

会場に足を踏み入れた瞬間から、そのスケールとコンセプトに圧倒されるであろう木造建築群は、まさに「未来の木造非住宅のショーケース」そのものだからです。

「モクプロ」は、この歴史的なイベントを単なる実績紹介で終わらせるのではなく、建築実務者の皆様が抱える課題解決のヒント、そして新たなビジネスチャンスを発見するための「生きた情報」としてお届けしたいと考えています。

この記事は、私たちが実際に現地を視察し、専門家の視点でその核心を読み解いたレポートです。

世界最大の木造建築「大屋根リング」は、なぜ木造でなければならなかったのか? 

各国のパビリオンが競い合うように採用した革新的な木材技術とは? 

そして、これからの設計・施工実務に直接関わってくるであろう「サステナビリティ」の基準とは?

本記事では、これらの疑問に答えながら、大阪・関西万博の木造化・木質化事例を徹底的に解説します。

INDEX

なぜ今、大阪・関西万博の「木造建築」に世界が注目するのか?

なぜ今、大阪・関西万博の「木造建築」に世界が注目するのか?

大阪・関西万博の会場は、単なるパビリオンの集合体ではありません。

それは、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを、建築という媒体を通して世界に示す壮大なインスタレーションです 。

その中心的な役割を担っているのが「木材」です。

なぜ、未来社会を語る上で木材が選ばれたのでしょうか。

その背景には、過去から未来へと続く明確な思想と、現代社会が抱える課題への具体的な解決策としての期待が込められています。

この章では、万博の木造建築が持つ歴史的意義、テーマとの関連性、そして私たち建築実務者にとっての重要性を解き明かし、視察を始める上での基本的な視点を提供します。

万博の木造建築は、単なるトレンドではなく、時代の必然であることをご理解いただけるでしょう。

1970年万博から受け継がれる木材活用のDNA

大阪で万博が開催されるのは、1970年以来、実に55年ぶりです。

当時の万博を象徴する建築の一つに、カナダの「ブリティッシュ・コロンビア館」がありました 。

このパビリオンは、樹齢270年、高さ50mを超える巨大なベイマツの原木をそのまま並べた圧巻のデザインで、「モミの木の彫刻」とも称され、多くの人々に衝撃を与えました 。

これは、木材を加工されていない「ありのままの自然の力」の象徴として提示するものでした。  

そして2025年、再び大阪の地で、木材が主役の座に返り咲きました。

しかし、その表現方法は大きく進化しています。

今回の万博では、集成材やCLTといったエンジニアードウッドが主役となり、最先端のデジタル技術と組み合わせることで、1970年当時には想像もできなかったような大規模かつ複雑な木造建築が実現しています 。  

この55年間の変化は、木材が単なる「自然素材」から、現代の厳しい要求に応える「高性能なエンジニアリング材料」へと進化したことを明確に示しています。

1970年の万博が木材の持つ根源的な魅力を世界に示したとすれば、2025年の万博は、技術によって拡張された木材の新たな可能性を提示する場と言えるでしょう。

この歴史的な文脈を知ることで、今回の万博建築の革新性をより深く理解することができます。

「いのち輝く未来社会」を体現するサステナブルな建築

大阪・関西万博の核心的テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です 。

この哲学的なテーマを建築でどう表現するのか。

その答えが、木材の全面的な活用でした。

公式コンセプトアニメーションでは、一本の木が製品となり、やがて土に還る「いのちの循環」が描かれています 。

この思想は、成長過程でCO2を吸収・固定し、建材として利用された後も再利用や自然還元が可能な木材のライフサイクルそのものと深く共鳴します 。  

博覧会協会は「持続可能な大阪・関西万博開催に向けた方針」の中で、SDGsへの貢献を明確に掲げています 。

特に、脱炭素化や資源循環といった目標達成において、木材は理想的な素材です 。

会場が軟弱地盤である夢洲に建設されるにあたり、軽量な木材は物理的な制約に対する実用的な解答でもありました 。  

このように、万博における木材の選択は、単なるデザイン上の好みやコストの問題ではありません。

それは、地球環境との共生や持続可能な社会の実現という、万博が世界に発信する最も重要なメッセージを具現化するための、戦略的かつ哲学的な選択なのです。

私たち建築実務者は、この背景を理解し、サステナビリティという価値を設計・施工にどう組み込むかを学ぶ必要があります。

木造非住宅の未来を占う巨大な実験場

今回の万博は、私たち木造非住宅に関わる者にとって、未来の技術とデザインの動向を一度に体感できる、またとない「巨大な実験場」です。

会場デザインプロデューサーの藤本壮介氏は、この万博が木造建築にとって、1851年のロンドン万博で鉄とガラスの「クリスタル・パレス」が登場した時のような、歴史的な転換点になるかもしれないと語っています 。  

世界最大級の木造建築である大屋根リングをはじめ、国内外のパビリオンでは、CLT、集成材、さらには古材に至るまで、多種多様な木材と工法が採用されています 。

これらは、今後の非住宅建築における木造化・木質化の可能性を大きく広げるものです。

例えば、これまで木造では難しいとされてきた大規模なスパンや複雑な曲面が、どのような技術で実現されているのか。

短工期や循環型設計といった課題に、各パビリオンがどう応えているのか。  

これらの実例を直接目にすることで、設計事務所は新たなデザインの着想を得られ、工務店や建設会社は最新の施工ノウハウを学ぶことができます。

また、建材・木材メーカーにとっては、自社製品の新たな用途開発や市場ニーズを探る絶好の機会となるでしょう。

万博は、未来の教科書であり、ビジネスのヒントが詰まった宝庫なのです。

万博のシンボル「大屋根リング」を徹底解剖!世界最大の木造建築の正体

万博のシンボル「大屋根リング」を徹底解剖!世界最大の木造建築の正体

大阪・関西万博の会場を訪れた誰もがまず目を奪われるのが、会場全体を包み込むように存在する巨大な「大屋根リング」です。

全周約2km、世界最大の木造建築物としてギネス世界記録にも認定されたこのリングは、まさに万博の顔であり、今回の木材活用の象徴と言えるでしょう 。

しかし、その圧倒的なスケールの裏には、どのような設計思想と技術が隠されているのでしょうか。

この章では、万博のシンボルである大屋根リングに焦点を当て、その設計コンセプトから構造、材料調達に至るまでを多角的に分析します。

この巨大プロジェクトを読み解くことは、日本の木造建築技術の現在地と未来への課題を理解することに直結します。  

設計思想に迫る:建築家・藤本壮介氏が描いた「多様性と一体性」

大屋根リングの設計を手がけたのは、会場デザインプロデューサーでもある建築家の藤本壮介氏です。

氏が最初に会場予定地の夢洲を訪れた際、何もない埋立地に広がる広大で美しい「空」に感銘を受け、この空そのものを万博のシンボルにできないかと考えました 。

大屋根リングは、この「ひとつの空」を切り取るフレームとして構想されたのです。

多様な国々の人々がこのリングの上から同じ空を見上げることで、文化や価値観の違いを超えた一体感やつながりを生み出すことを意図しています 。 

また、円環状の形態は「多様でありながら、ひとつ」という万博のコンセプトを物理的に表現しています 。

リングの内側に各国のパビリオンを配置することで、それぞれの個性を尊重しつつ、全体としての一体感を醸成するのです 。

機能面では、来場者がスムーズに回遊できる動線を確保し、日本の強い日差しや雨を遮る快適な空間を提供する役割も担っています 。

地上約20mの高さからは、これまで護岸に遮られていた大阪湾の景色を眺めることもでき、会場と周辺環境とを視覚的に結びつけています 。  

伝統と革新の融合:現代に進化した「貫工法」と最新の施工技術

大屋根リングの構造的な特徴は、日本の伝統的な木造建築で用いられてきた「貫(ぬき)工法」をベースにしている点です 。

これは、柱に穴を開けて梁を貫通させ、楔(くさび)で固定するという、釘を使わない伝統的な接合方法です 。

しかし、前例のない巨大なスケールと現代の厳しい耐震基準を満たすため、この伝統技術は最先端のエンジニアリングによって大幅にアップデートされました。  

具体的には、接合部にボルトやプレートによる補強を加えるだけでなく、木製や鉄製の楔を巧みに使用することで、接合部の強度を飛躍的に向上させています 。

この巨大プロジェクトの建設は、大林組、竹中工務店、清水建設という日本の大手ゼネコン3社が工区を分けて担当するという、まさに国家的な事業となりました 。

各社が独自の工夫を凝らした楔の設計・施工は、日本の高度な木造建築技術を世界に示すショーケースそのものです 。

BIMをはじめとするデジタル技術を駆使して数十万点もの部材を管理し、伝統と革新を融合させたこの挑戦は、今後の大規模木造建築の設計・施工における貴重な手本となるでしょう 。

木材調達の現実と課題:国産材7割が示す日本の林業の可能性

大屋根リングには、約27,000立方メートルもの膨大な木材が使用されています 。

その内訳は、スギやヒノキといった国産材が約7割、オウシュウアカマツなどの輸入材が約3割です 。

国産材を積極的に活用するという方針は、日本の豊かな森林資源の循環利用を促進し、国内林業の活性化に繋がるものとして高く評価できます 。  

一方で、3割を輸入材に頼らざるを得なかったという事実は、私たちに重要な課題を突きつけています。

日本には、適切な管理のために間伐が必要な森林が豊富に存在するにもかかわらず、なぜ輸入材が必要だったのでしょうか 。

その背景には、コストの問題に加え、これほど大規模なプロジェクトの厳しい工期内に、必要な量の認証木材を安定的に調達・加工する国内サプライチェーンの体制が、まだ十分ではなかった可能性が指摘されています 。  

この事実は、今後の非住宅木造の需要拡大を見据えたとき、木材の安定供給体制の構築が急務であることを示唆しています。

万博を契機に、日本の林業や木材加工業がこの課題にどう向き合っていくのか、業界全体で注視していく必要があります。

アイデアの宝庫!明日から実務に活かせる注目木造パビリオン3選

万博の木造建築の魅力は、シンボルである大屋根リングだけに留まりません。

会場内に点在する国内外のパビリオンは、それぞれが独自のコンセプトと技術を駆使した、まさに木造建築のアイデアの宝庫です。

アルゴリズミックデザイン、古材の創造的再利用、プレファブ化されたモジュール構法など、そのアプローチは多岐にわたります 。

これからの非住宅木造の設計・施工に新たなインスピレーションを与えてくれることは間違いありません。

この章では、数あるパビリオンの中から、特に注目すべき3つの事例をピックアップし、その設計思想と技術的なポイントを詳しく解説します。

明日からの実務に直接活かせるヒントが、きっと見つかるはずです。  

【循環設計】解体・再利用を前提とした「いのちの遊び場 クラゲ館」

音楽家・数学研究者の中島さち子氏がプロデュースし、建築家の小堀哲夫氏が設計を手がけた「いのちの遊び場 クラゲ館」は、循環型設計の最先端を行くパビリオンです 。

パビリオン中央にそびえる「創造の木」は、4,600本以上もの吉野杉の角材で構成されています 。

その有機的で複雑な形態は、生物の成長モデルである「粘菌アルゴリズム」を用いてコンピュータで生成されたもので、自然物のような独特のゆらぎを持っています 。  

しかし、このパビリオンの最も注目すべき点は、多くの木材部材が金物で恒久的に固定されるのではなく、ロープで結束されていることです 。

これは「解体のためのデザイン(Design for Disassembly)」という思想の現れであり、万博閉幕後に建物を容易に解体し、部材を移築・再利用することを当初から意図した設計です 。 

建築物のライフサイクル全体を見据え、その「終わり」から設計を考えるというアプローチは、建設廃棄物の削減が大きな課題となっている現代において、非常に重要な視点です。

このクラゲ館の試みは、サステナブルな建築のあり方を根本から問い直す、先進的な事例として記憶されるでしょう。

【文化継承】古材に新たな命を吹き込む「Dialogue Theater」

映画作家の河瀨直美氏がプロデュースし、建築家の周防貴之氏が設計した「Dialogue Theater – いのちのあかし –」は、木材の再利用という概念を、文化的価値の継承という領域にまで高めた画期的なプロジェクトです 。

このパビリオンは、新たな木材を使うのではなく、奈良県十津川村と京都府福知山市にあった、昭和時代建設の歴史ある木造校舎3棟を移築・再構成して作られています 。  

設計の意図は、単なる古い建物の復元ではありません。

役割を終えた建築物にパビリオンという新たな役割を与え、風化した古い部材と新しい素材を意図的に混在させることで、全く新しい建築空間を創造しています 。

柱や梁に残る子どもたちの落書きなど、建物に刻まれた「時間」や「記憶」を尊重し、それらを未来へと継承することを目指しているのです 。  

このパビリオンは、建築物が持つ物理的な価値(エンボディド・カーボン)だけでなく、そこに宿る物語や記憶(エンボディド・メモリー)をも循環させるという、新しいサステナビリティの形を提示しています。

地域に眠る既存の木造建築の価値を再発見し、創造的に活用するヒントがここにあります。

【国際協業】日本のCLT技術が支える「イタリア館」

建築家マリオ・クチネッラ氏が設計した「イタリア館」は、ルネサンス期の「理想都市」を現代的に再解釈した美しいパビリオンです 。

この先進的なイタリアンデザインを実現しているのが、実は日本の木材技術である点は特筆に値します。  

パビリオンの躯体には、日本の西尾レントオール社が開発した木造モジュール構法「ATA-CLT-S構法」が採用されています 。

このシステムは、一般に流通している木材から作られたCLT(直交集成板)パネルと鉄製の金物などを組み合わせたもので、工場でプレファブ化することにより、現場での工期を大幅に短縮し、建設廃棄物を削減できるという大きなメリットがあります 。  

この事例は、木造モジュール建築の高い効率性と環境性能を明確に示すと同時に、海外の優れたデザインと日本の高度な木材技術が国境を越えて協業できる可能性を示しています。

今後、非住宅木造の市場が拡大していく中で、このようなプレファブ化・モジュール化の技術は、品質の安定化と生産性向上の鍵となるでしょう。

国際的なプロジェクトに参画する上でも、非常に参考になる事例です。

これからのスタンダード?万博が示す「持続可能な木材調達」の基準

これからのスタンダード?万博が示す「持続可能な木材調達」の基準

大阪・関西万博が「サステナブルな万博」を標榜する上で、その根幹を支えているのが、使用する資材、特に木材の調達に関する厳格な基準です。

ただ木を使うだけでなく、「どのような木を、どのように調達するか」という点が極めて重要視されています。

この万博で設定された「持続可能性に配慮した木材の調達基準」は、今後の公共建築や大規模プロジェクトにおける一つのベンチマークとなる可能性があります。

この章では、万博が定めた木材調達の基本方針と具体的な基準のポイントを解説し、それが私たち建築実務者のサプライチェーン構築にどのような示唆を与えるのかを考察します。

万博全体で掲げられた木材利用の基本方針とは

万博における木材利用は、博覧会協会が策定した「持続可能な大阪・関西万博開催に向けた方針」に基づいています 。

この方針は、会場の整備・運営を通じて、パリ協定などの国際的な環境合意に貢献することを明確にうたっています 。

その中で、脱炭素化、資源循環、生態系の保全という3つの目標を達成するための主要な戦略として、木材の利用が位置づけられています。  

木材は、樹木の成長過程で大気中のCO2を吸収し、炭素として長期間固定する「炭素の貯蔵庫」としての役割を果たします。

また、適切に管理された森林から伐採される木材は、再生可能な資源であり、建築物としての役目を終えた後も、マテリアルリサイクルやエネルギー利用(サーマルリサイクル)が可能です。 

このように、万博では木材を単なる建築材料としてではなく、地球環境問題の解決に貢献する「サステナブルな素材」として捉え、その利用を積極的に推進する姿勢を明確にしています。

この基本方針は、今後、建築プロジェクトにおける環境性能を評価する上で、ますます重要な考え方となっていくでしょう。

FSC・PEFCだけじゃない!調達基準5つの重要ポイント

万博の木材調達基準で注目すべきは、その網羅性です。

もちろん、FSCやPEFC(SGECを含む)といった国際的な森林認証制度は、基準への適合性を証明する主要な手段として認められています 。

しかし、この基準が要求するのはそれだけではありません。

認証の有無にかかわらず、すべての木材に対して、以下の5つの中核的要件を満たすことが求められています 。 

1.合法性:伐採国の法令に準拠していること。

2.持続可能な管理:計画的な森林管理下で産出されていること。

3.生態系の保護:原生林など環境上重要な地域を破壊していないこと。

4.社会的責任:先住民族や地域住民の権利が尊重されていること。

5.労働者の権利:伐採に従事する労働者の安全衛生が確保されていること。 

特に、環境側面だけでなく、先住民族の権利や労働安全といった社会的・人権的側面にまで踏み込んでいる点が重要です。

これは、サプライチェーン全体に対する包括的な責任(デューデリジェンス)を求める世界的な潮流を反映したものであり、これからの企業活動において必須の視点と言えます。

自社のサプライチェーン構築にどう活かすか

万博で示されたこの調達基準は、私たち建築実務者にとって、自社の木材調達方針やサプライチェーンを見直す良い機会となります。

これからの時代、施主や社会から求められるのは、単に「木を使っている」ということだけではなく、「どのような背景を持つ木材を、責任を持って使用しているか」という透明性です。 

まずは、現在取引のある木材供給業者に対して、取り扱っている木材が万博の基準(合法性、持続可能性、生態系保護など)を満たしているかを確認することから始めましょう。

森林認証材の取り扱い比率を高めることは、最も分かりやすく信頼性の高い方法の一つです。 

また、この基準を参考に、自社独自の「サステナブル木材調達ガイドライン」を策定することも有効です。

これをウェブサイトなどで公開すれば、企業の環境・社会に対する姿勢をアピールする強力な広報ツールにもなります。

万博の基準を自社のものさしとして活用することで、リスク管理を強化し、企業の信頼性と競争力を高めることができるのです。

まとめ:万博視察から見えた、木造非住宅ビジネス成功の鍵

まとめ:万博視察から見えた、木造非住宅ビジネス成功の鍵

これまで、大阪・関西万博における木造化・木質化の象徴的な事例とその背景にある思想や基準について詳しく見てきました。

大屋根リングの壮大なビジョン、各パビリオンの革新的な試み、そしてサステナビリティという通底するテーマ。

これらを通して見えてきたのは、木造非住宅の未来を切り拓くための、いくつかの重要な「鍵」です。

この最終章では、今回の視察レポートを総括し、私たち建築実務者が明日からのビジネスで成功を収めるために、何を学び、どう行動すべきかを提言します。

万博は一過性のイベントですが、そこから得られる知見は、永続的な価値を持つはずです。

技術革新と設計の自由度がもたらす新たな可能性

今回の万博が最も明確に示したことの一つは、技術革新が木造建築の可能性を劇的に押し広げたという事実です。

大屋根リングに見られるような、伝統工法と最新の構造解析技術の融合は、これまで鉄骨やRC造の独壇場であった大規模建築の領域に、木造が本格的に参入できることを証明しました 。  

また、クラゲ館のアルゴリズミックデザインや、イタリア館のCLTモジュール構法は、設計の自由度を飛躍的に高めています 。

コンピュータ支援による複雑な形態の生成や、工場生産による品質の安定化と工期短縮は、木造建築の表現力と生産性の両方を向上させます。  

これらの技術は、もはや一部の特殊なプロジェクトのものではありません。

今後、ますます一般化し、コストも下がっていくことが予想されます。

私たち実務者は、これらの新しい技術動向に常にアンテナを張り、積極的に知識を吸収し、設計や施工の選択肢として柔軟に取り入れていく姿勢が不可欠です。

それが、クライアントに対してより付加価値の高い提案を行うための鍵となります。

「サステナブル」という付加価値の重要性

万博全体を貫く「サステナビリティ」というテーマは、今後の建築業界における最大のキーワードと言っても過言ではありません。

Dialogue Theaterが示した古材の創造的再利用や、厳格な木材調達基準は、環境配慮が単なる努力目標ではなく、プロジェクトの価値を決定づける重要な要素であることを示しています 。

これからの施主、特に企業や公共団体は、建築物に対して、その環境性能や社会貢献度をより厳しく評価するようになります。

投資家が企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを重視する流れとも連動しています。 

したがって、「サステナブルであること」は、コスト増の要因ではなく、建築物の価値を高め、企業のブランドイメージを向上させる「付加価値」として捉えるべきです。

合法で、環境や社会に配慮した木材を使い、循環型の設計を取り入れること。

これらを積極的に提案し、実現できる専門家や企業が、これからの市場で選ばれていくことは間違いありません。

自社の強みとして「サステナビリティ」を明確に打ち出していく戦略が求められます。

挑戦を成功に導くために、今すぐ始めるべきこと

大阪・関西万博が示した木造非住宅の未来は、大きな可能性に満ちていますが、その変化に対応し、チャンスを掴むためには、具体的な行動が必要です。

まずは、情報収集と学習です。

この記事で紹介したような事例についてさらに深く調べたり、関連するセミナーや勉強会に参加したりすることで、知識をアップデートし続けることが重要です。

 次に、ネットワークの構築です。

新しい技術や材料には、新たなパートナーシップが不可欠です。

設計事務所、施工会社、木材メーカーといった業界内の連携はもちろん、異業種の専門家との交流も新たなアイデアを生み出すきっかけになります。 

そして、私たち「モクプロ」は、まさにそのための「プラットフォーム」です。

専門知識を体系的に学べる「ナレッジ」、今回のような先進事例を深く解説する「プロジェクト」、そして実務者同士が繋がり課題を解決する「コミュニティ」。

これらの価値を提供することで、皆様の挑戦を成功へと導くパートナーでありたいと願っています。

万博が閉幕した後も、このムーブメントを共に推進していきましょう。

ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援

非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。

諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。

木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。

ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。

「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための実務支援チームです。

◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出

◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築

【主なサービス内容】

◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等

◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等

◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等

木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。

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著者

一級建築士。群馬県出身。芝浦工業大学卒業後、設計事務所・工務店・木構造材メーカー勤務を経て、2015年にハウス・ベース株式会社を起業。事業内容:住宅・建築関連の業務支援。特に非住宅用途の木造化・木質化支援(広報支援・設計支援・実務支援)に注力。木造非住宅オウンドメディア「モクプロ」を運営。

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