【脱炭素】脱炭素社会へ。非住宅の木造化・木質化がビジネスを加速

【脱炭素】脱炭素社会へ。非住宅の木造化・木質化がビジネスを加速

「脱炭素社会」「2050年カーボンニュートラル」といった言葉を耳にする機会が、日に日に増えているのではないでしょうか。

地球規模の環境問題への対応は、今やあらゆるビジネスにとって避けては通れない重要課題です。

特に、私たち建築業界は、建物の建設から解体までのライフサイクル全体で多くのエネルギーを消費するため、その責任と役割は非常に大きいと言えます。

「具体的に、何から始めればいいのだろう?」「自社のビジネスにどう活かせるのか?」そんな疑問や不安をお持ちの建材メーカー、工務店、設計事務所の皆様も多いはずです。

その答えの一つが、今、国を挙げて推進されている「建築物の木造化・木質化」にあります。

これまで鉄骨造やRC造が主流だった店舗、オフィス、倉庫といった非住宅分野で、再生可能資源である「木」を積極的に活用する動きが急速に広がっているのです。

これは単なる環境貢献活動ではありません。

木材利用は、企業のブランド価値向上、新たなビジネスチャンスの創出、そして地域社会への貢献にも繋がる、未来への戦略的投資です。

本記事では、脱炭素という大きな潮流の中で、木造化・木質化がなぜこれほどまでに注目されているのか、その理由とメリット、そして実務に役立つ最新情報を、専門家の視点から分かりやすく解説していきます。

INDEX

なぜ今「脱炭素」と「木造化」が重要なのか?

なぜ今「脱炭素」と「木造化」が重要なのか?

世界中で異常気象が頻発し、地球温暖化対策は待ったなしの状況です。

こうした背景から「脱炭素社会」への移行が、国際社会共通の目標となりました。

日本も例外ではなく、国家戦略としてカーボンニュートラルの実現を掲げています。

その中で、建築業界はCO2排出削減の鍵を握る重要分野として、大きな変革を求められています。

特に、これまで木材利用が少なかったオフィスや商業施設などの「非住宅分野」は、木造化・木質化による脱炭素化のポテンシャルが非常に大きい未開拓市場です。

この章では、なぜ今、脱炭素と木造化がこれほど密接に結びつき、ビジネスの重要テーマとなっているのか、その大きな背景から分かりやすく解説します。

世界が目指す「脱炭素社会」とは?

「脱炭素社会」とは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする社会のことです 。

ここで言う「実質ゼロ」とは、排出を完全にゼロにするのが難しい分野の排出量を、森林による吸収や技術による除去によって差し引き、全体としてプラスマイナスゼロの状態を目指す「カーボンニュートラル」という考え方に基づいています 。  

以前は、CO2排出量が「少ない」社会を目指す「低炭素社会」という言葉が主流でした 。

しかし、気候変動の危機が深刻化する中で、より踏み込んだ対策が必要であるとの認識が世界的に広まりました。

その大きな転換点となったのが、2015年に採択された「パリ協定」です 。  

パリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて「2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」という世界共通の長期目標を掲げました 。

そして、先進国だけでなく途上国を含む全ての参加国が、5年ごとに削減目標を提出・更新することが義務付けられ、歴史上初めて、世界全体で温暖化対策に取り組む枠組みができたのです 。

この国際的なルールが、世界中の国や企業に脱炭素化への取り組みを強く促す原動力となっています。 

日本の国家戦略と建築業界に求められる役割

パリ協定が定めた国際的な枠組みを受け、日本も気候変動対策を大きく加速させました。

2020年、政府は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」、すなわち「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指すことを宣言しました 。

これは日本の環境政策における歴史的な転換点であり、あらゆる産業活動の前提となりました。  

さらに、その中間目標として「2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する」という野心的な目標も掲げています 。  

この高い目標を達成するため、政府は環境対策を経済成長のチャンスと捉える「グリーン成長戦略」を策定しました 。

この戦略では、成長が期待される14の重要分野が特定されていますが、その中に「住宅・建築物」や「食料・農林水産業」が明確に含まれている点が極めて重要です。

これは、建物の省エネ化だけでなく、建材として木材を積極的に利用し、林業を活性化させることが、国の成長戦略の柱の一つとして位置づけられたことを意味します。  

建築物は、建設から運用、解体までのライフサイクル全体で多くのCO2を排出します。

そのため、建築業界が脱炭素化に取り組むことは、日本の目標達成に不可欠です。

特に、製造時に多くのCO2を排出する鉄やコンクリートから、再生可能な資源である木材へと転換していくことが、今、強く求められているのです。

非住宅分野こそ木造化・木質化のフロンティア

日本の建築物における木材利用の現状を見ると、そのポテンシャルがどこにあるかは一目瞭然です。

国土交通省の統計によれば、3階建て以下の低層住宅では木造率が80%を超えており、木造が主流となっています 。  

一方で、店舗、事務所、倉庫といった「低層の非住宅」に目を向けると、木造率はわずか15%程度(2022年)に留まっています 。

さらに、4階建て以上の中高層建築物になると、住宅・非住宅を問わず、木造率は0.1%にも満たないのが現状です 。  

この数字は、裏を返せば、非住宅分野や中高層建築には木材利用を拡大できる巨大な「伸びしろ」があることを示しています。

これまで鉄骨造やRC造が当たり前とされてきたこれらの分野で、木造化・木質化を進めることこそが、建築業界全体のCO2排出量を大幅に削減するための鍵となります。

「公共建築物等木材利用促進法」の効果もあり、公共建築物の木造率は着実に上昇してきました 。

そして、後述する法改正によって、その流れは民間建築物へと大きく広がろうとしています。

技術革新も進み、かつては困難とされた大規模な木造建築も可能になりました。

非住宅分野は、まさにウッド・チェンジの最前線であり、新たなビジネスチャンスが広がるフロンティアなのです。 

脱炭素に貢献!木材が持つ3つのすごい力

脱炭素に貢献!木材が持つ3つのすごい力

「建物を木でつくることが、なぜ脱炭素に繋がるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。

その理由は、木材が持つユニークな性質にあります。

木材は単に環境に優しい素材というだけでなく、CO2を削減するための強力なメカニズムを3つも備えています。

それは、(1)CO2を吸収して建物内に閉じ込める「炭素貯蔵効果」、(2)製造時のCO2排出が多い他素材の使用を減らす「マテリアル置換効果」、(3)役目を終えた後もエネルギーとして活躍する「エネルギー代替効果」です。

この章では、木材が地球環境に貢献する3つのすごい力を、一つひとつ分かりやすく解説していきます。

CO2を閉じ込める「炭素貯蔵効果」

木材が持つ一つ目のすごい力は、CO2を長期間にわたって固定し続ける「炭素貯蔵効果」です 。

樹木は、成長する過程で光合成を行い、大気中のCO2を吸収して、炭素として幹や枝の中に蓄えます 。

この樹木を伐採し、建築物の柱や梁、床材として利用すると、その炭素は建物の寿命が尽きるまでの数十年間、あるいはそれ以上にわたって建物の中に貯蔵され続けるのです 。  

つまり、木造建築物を建てることは、都市の中にCO2を貯蔵する「第二の森林」をつくる行為に他なりません 。

この考え方は「都市の森林づくり」とも呼ばれ、カーボンニュートラル実現に向けた重要な戦略とされています。  

この効果は国際的にも認められており、建築物などに利用されている木材に貯蔵されている炭素量は、国の温室効果ガス吸収量として計算に含めることができます 。  

林野庁は、この炭素貯蔵量を「見える化」するためのガイドラインも策定しており、簡単な計算式で自社の建築物がどれくらいのCO2を貯蔵しているかを算出し、公表することが可能です 。

これは企業のESG活動をアピールする上でも有効な手段となり、木材利用の価値を社会に示す大きな力になります。  

鉄やコンクリートよりエコな「マテリアル置換効果」

二つ目の力は、製造時のCO2排出量が少ない木材が、排出量の多い鉄やコンクリートといった他の建材を代替することによる「マテリアル置換効果」です 。

建物の環境性能を考えるとき、私たちはつい冷暖房などの運用時のエネルギー消費に目が行きがちです。

しかし、建材の製造や輸送、建設時に排出されるCO2、いわゆる「エンボディドカーボン」の削減も、脱炭素社会の実現には非常に重要です 。  

鉄鋼やセメントの製造には、原料を高温で処理するために大量のエネルギーが必要で、多くのCO2が排出されます。

一方、木材は太陽のエネルギーで自然に成長し、製材などに必要なエネルギーはごくわずかです 。  

ある試算によれば、住宅一戸を建てる際の材料製造時のCO2排出量は、木造住宅を1とすると、鉄骨プレハブ住宅は約3倍、鉄筋コンクリート(RC)住宅は約4.3倍にもなります 。

この差は歴然です。  

建物を木でつくるという選択そのものが、本来排出されるはずだった大量のCO2を「未然に防ぐ」行為になるのです。

特に、これまで木材利用が進んでいなかった非住宅分野や中高層建築で木造化を進めることは、日本の建設業界全体のエンボディドカーボンを削減する上で、計り知れないインパクトを持っています。

最後まで無駄にしない「エネルギー代替効果」

三つ目の力は、木材のライフサイクルの最終段階で発揮される「エネルギー代替効果」です 。

建築物としての役目を終えた木材や、製材工場で出る端材などを、化石燃料の代わりにエネルギー源として利用(木質バイオマス利用)することで、さらなるCO2排出削減に貢献します 。  

木材を燃やすとCO2が出ますが、これは樹木が成長過程で大気中から吸収したものであり、長い目で見れば大気中のCO2濃度を増やさないと考えられています。

この性質から、木質バイオマスエネルギーは「カーボンニュートラル」なエネルギーとされています 。  

この木質バイオマスを、石炭や石油、天然ガスの代わりに発電や熱供給に利用することで、化石燃料の使用を直接的に減らすことができます 。  

このような木材の利用方法は「カスケード利用(多段階利用)」と呼ばれ、循環型経済の重要な考え方です 。

まず価値の高い建材として長期間利用し、次にボードなどの原料として再利用、そして最後にエネルギーとして回収する。

このように資源を余すことなく使い切ることで、木材の価値を最大限に引き出すことができます 。

炭素を貯蔵し、他素材を代替し、最後はエネルギーにもなる。この三重の貢献こそが、木材を脱炭素社会のヒーローたらしめる理由なのです。  

国も後押し!ウッド・チェンジを加速させる法律と補助金

国も後押し!ウッド・チェンジを加速させる法律と補助金

非住宅分野での木造化・木質化には、多くのメリットがある一方で、「コストは?」「法的な制約は?」といった実務的な不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、心配は無用です。

現在、国は「ウッド・チェンジ」、つまり社会全体で木材利用へと転換する動きを、法律と予算の両面から強力に後押ししています。

2021年に改正された法律は、木材利用の対象を民間建築物へと大きく広げ、市場の活性化を目指しています。

さらに、林野庁や国土交通省などが提供する多様な補助金制度は、初期投資のハードルを下げ、事業者の挑戦をサポートします。

この章では、建築実務者が知っておくべき法律のポイントと、活用しない手はない補助金制度について解説します。

民間建築も対象に!「都市の木造化推進法」とは

日本の木材利用を推進する法律の柱となるのが、通称「都市の木造化推進法」です 。

この法律は、もともと2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」として制定されました。

当初はその名の通り、国や自治体が建てる公共建築物を対象に木造化を促すもので、低層の公共建築物は原則として木造化を図る方針が掲げられ、一定の成果を上げてきました 。  

しかし、2050年カーボンニュートラルの実現という大きな目標のため、2021年に歴史的な法改正が行われました。

最大のポイントは、法律の対象が「公共建築物」から、オフィスビルや商業施設、工場といった民間建築物を含む「建築物一般」へと拡大されたことです 。

これにより、非住宅分野での木材利用促進が、国の公式な方針となったのです。  

さらに、法律の名称と目的に「脱炭素社会の実現に資する」という言葉が明記され、木材利用が地球温暖化対策の重要な手段であることが法的に位置づけられました 。

これは、木材利用が単なる林業振興策ではなく、国家的な環境戦略の一環へと格上げされたことを意味します。

この強力な法的基盤が、今後の日本の建築のあり方を大きく変える原動力となっています。  

【2025年度最新】知らないと損する補助金制度をチェック

法律による後押しに加え、政府や地方自治体は、木造化・木質化プロジェクトの経済的なハードルを下げるための多様な補助金制度を用意しています 。

これらを活用することで、初期コストを抑え、事業の採算性を高めることが可能です。  

国の制度は、主に3つの省庁が中心となって展開しています。

  • 農林水産省(林野庁): 「林業・木材産業循環成長対策交付金」など、木材の需要創出を目的とした支援が中心です。商業施設等の木造化・木質化や、CLTを活用した先進的なプロジェクトを手厚くサポートします 。  
  • 国土交通省: 「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」などを通じて、中大規模木造建築や、設計・施工で先導的な技術を導入するプロジェクトを支援します 。  
  • 環境省: 「建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業」において、省エネ建築物を対象としつつ、CLTなどの木質材料を一定量以上使用する場合に優先的に採択するなど、木材利用を後押ししています 。  

これらに加え、各都道府県や市町村も、地元で生産された「地域材」の利用を促進するための独自の補助金制度を設けています 。

自社のプロジェクトがどの制度に合致するのか、一度チェックしてみる価値は十分にあります。

安心・安全な木材利用の証「クリーンウッド法」

木材利用を進める上で、大前提となるのが、その木材が違法に伐採されたものではない、ということです。

環境に貢献するための木造建築が、世界の森林破壊に加担していては本末転倒です。

そこで重要な役割を果たすのが、通称「クリーンウッド法」(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)です 。  

この法律は、違法伐採された木材が国内市場に流通することを防ぎ、合法性が確認された木材(クリーンウッド)の利用を促すことを目的としています 。

木材を扱うすべての事業者に対し、取り扱う木材が合法的に伐採されたものであることを確認するよう努めること(デュー・デリジェンス)を求めています。  

そして、2025年4月からは、この法律がさらに強化されます

木材を輸入する事業者や、国内で最初に原木を販売する事業者など、サプライチェーンの川上に位置する事業者に対して、合法性の確認が法的な「義務」となるのです 。

違反した場合には罰則も科されます。  

この法改正により、日本の木材サプライチェーンの透明性と信頼性は大きく向上します。

私たち建築実務者は、合法性が担保された木材をより安心して利用できるようになります。

クリーンウッド法は、木造建築が環境面だけでなく、倫理的・社会的に責任ある行為であることを保証する重要な基盤なのです。

「燃える」「地震に弱い」はもう古い!木造建築の最新技術

「燃える」「地震に弱い」はもう古い!木造建築の最新技術

中大規模の建築物に木材の利用を提案すると、「木は燃えやすいのでは?」「地震の多い日本では危ないのでは?」といった懸念の声が聞かれることがあります。

しかし、それは過去のイメージに過ぎません。

近年の技術革新は目覚ましく、木造建築の弱点とされてきた防火性や耐震性は飛躍的に向上しました。

今や、木造は鉄骨造やRC造と遜色ない安全性を確保し、都市部の厳しい条件下でも建設が可能になっています。

この章では、木造建築の常識を覆した「耐火技術」、地震国日本のための「耐震性能」、そして大規模建築の可能性を広げた新素材「CLT」という、3つのキーテクノロジーについて分かりやすく解説します。

都市部でも建てられる!進化した「耐火技術」

「木は燃える」という性質は変えられませんが、技術の力で「燃えても倒壊しない」安全な建物を造ることは可能です。

2000年の建築基準法改正を機に、木造の耐火技術の研究開発は大きく進展し、今では都市部の防火地域でも高層の木造建築が建てられるようになりました 。  

現代の耐火木造技術には、主に3つのアプローチがあります。

一つ目は、柱や梁といった構造体を石膏ボードなどの燃えない材料で完全に覆う「被覆(メンブレン)型」です 。

火災時に被覆材が炎をガードし、構造体が燃えるのを防ぎます。

技術開発により、1時間、2時間、さらには3時間の耐火性能を持つ部材も実用化されています 。  

二つ目は、木材そのものの性質を利用した「燃えしろ設計」です 。

ある程度の太さがある木材は、火にあぶられると表面に炭化層ができます。

この炭化層が断熱材の役割を果たし、内部まで燃え進むのを遅らせます。

この性質を計算に入れ、火災時に燃えて炭化する部分(燃えしろ)をあらかじめ断面積に上乗せして設計する手法です。

木の美しい表情を見せながら耐火性能を確保できるのが魅力です。  

三つ目は、鉄骨を木材で覆うなど、異なる素材を組み合わせる「ハイブリッド型」です 。

木の質感と高い耐火性能を両立できます。

これらの技術によって、木造建築は鉄骨造やRC造と同等の安全性を確保しているのです。  

地震国日本の新常識!軽量で粘り強い「耐震性能」

地震が頻発する日本において、建物の耐震性能は最も重要な要素の一つです。実は、木造建築は地震に対して多くの利点を持っています。

最大の強みは、その「軽さ」です。

地震の際に建物が受ける力は、建物の重さに比例します。

木材は鉄やコンクリートに比べて軽量なため、建物全体にかかる地震の力を小さく抑えることができるのです。

さらに、後述するCLTなどの新しい木質材料を用いた現代の木造建築は、軽さに加えて、高い「剛性(変形しにくさ)」と「靭性(粘り強さ)」を兼ね備えています。

面で力を受け止めるCLTパネルは、建物の揺れを効果的に抑制します 。  

これらの性能は、実物大の建物を振動台に乗せて巨大な地震波で揺らす実験によって、科学的に証明されています。

例えば、10階建ての木造ビルに阪神・淡路大震災クラスの揺れを加えても、構造的な損傷なく耐え抜くことが確認されています 。

さらに、本震だけでなく、繰り返し襲ってくる強い余震を想定した実験でも、高い安全性が実証されています 。  

材料科学と構造工学の進歩により、現代の木造建築は日本の厳しい耐震基準をクリアするだけでなく、それを超える高い安全性能を実現しています。

軽量で粘り強い木造建築は、まさに地震国日本に適した構造と言えるでしょう。

大規模建築を可能にする「CLT」という切り札

近年の非住宅・中高層木造建築の進化を語る上で欠かせないのが、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)という新しい木質材料の存在です 。

CLTは、ひき板(ラミナ)の繊維方向を層ごとに90度ずつ交差させて接着した、巨大な木のパネルです 。

この構造により、反りやねじれが少なく、非常に高い強度と剛性を持ちます。  

CLTがもたらす最大のメリットの一つは、工期の大幅な短縮です 。

CLTパネルは工場で設計図通りに精密に加工され、現場ではそれをクレーンで組み立てるだけ。

RC造などと比べて現場作業が格段に減るため、工期を短縮できるだけでなく、騒音や廃棄物の抑制にも繋がります 。  

また、CLTは構造材でありながら、そのまま内装の仕上げ材として見せることも可能です 。

木の温もりあふれる豊かな空間を創出しつつ、内装工事のコストと手間を削減できます。  

日本でも2016年に関連する法律が整備され、CLTを使った建築設計が一般化しました 。

現在ではオフィス、商業施設、倉庫など多様な建物で採用が進み、国内のCLT建築物の累計完成件数は1,000件を超える見込みです 。

CLTは、木造建築のデザインの自由度と規模を飛躍的に高め、都市部での木材利用の新たな可能性を切り拓くキーテクノロジーなのです。  

ビジネスを加速させる木造化・木質化の+αの価値

ビジネスを加速させる木造化・木質化の+αの価値

これまで見てきたように、木造化・木質化は脱炭素社会の実現に大きく貢献します。

しかし、その魅力は環境性能だけにとどまりません。

木材を積極的に利用することは、企業の社会的評価を高め、ESG経営を推進する上で強力な武器となります。

また、木が持つ温もりや心地よさは、そこで働く人々の満足度や生産性を向上させる効果も期待されています。

さらに、地域の木材を使うことで、林業の活性化や地方創生にも貢献できるなど、ビジネスにプラスアルファの価値をもたらします。

この章では、環境貢献を超えた木造化・木質化の多面的なメリットについて掘り下げていきます。

企業のイメージアップとESG経営への貢献

現代の企業経営において、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視する「ESG経営」は、投資家や顧客から企業価値を評価される上で極めて重要な指標となっています。

建築物の木造化・木質化は、このESGの3つの側面すべてに貢献できる、非常に効果的な取り組みです。

まず「環境(E)」面では、これまで述べてきた通り、CO2の貯蔵や排出削減を通じて、気候変動対策に直接的に貢献します 。

木造建築を建てること自体が、企業の環境に対する積極的な姿勢を社会に示す強力なメッセージとなります。  

次に「社会(S)」面では、地域材の活用が挙げられます。

地域の木材を使うことで、地方の林業や木材産業を支援し、雇用の創出や地域経済の活性化に繋がります。

これは、企業の社会的責任(CSR)活動の一環としても高く評価されます。

そして「ガバナンス(G)」面では、サプライチェーンの透明性が重要になります。

「クリーンウッド法」に則って合法性が確認された木材を使用することは、倫理的で持続可能な調達を行っていることの証明となり、企業のコンプライアンス体制の強化に繋がります 。  

このように、木造化・木質化は、企業のサステナビリティ活動を内外にアピールし、ブランドイメージと企業価値を向上させるための戦略的な一手となり得るのです。

働く人の満足度も向上?ウェルビーイングな空間づくり

木材がもたらすメリットは、地球環境や企業評価といったマクロな話だけではありません。

建物の中にいる「人」の心と身体にも、良い影響を与えることが科学的に分かってきています。

いわゆる「ウェルビーイング(心身ともに健康で幸福な状態)」の向上です。

多くの人が経験的に感じるように、木をふんだんに使った空間は、温かみがあり、人を落ち着かせる効果があります 。

実際に、木質空間では血圧の上昇が抑えられたり、ストレスを感じた時に分泌されるホルモンの濃度が低下したり、リラックス状態になることが複数の研究で示されています 。  

この効果は、人々が長い時間を過ごすオフィス環境において特に重要です。

木質化されたオフィスで働く従業員を対象とした調査では、「社員同士のコミュニケーションが増えた」「仕事へのモチベーションが高まる」「集中して業務を続けても疲れにくい」といったポジティブな声が多数報告されています 。  

従業員の働きがいや心身の健康を重視する「健康経営」が注目される中、オフィスの木質化は、人材の確保や定着、そして知的生産性の向上に繋がる有効な投資と言えるでしょう。

脱炭素への貢献が、同時に働く人にとってより快適で健康的な環境づくりにも繋がるのです。

地域経済を活性化させる「地産地消」の木材利用

建築物の木造化・木質化を進める際に、特に注目したいのが「地域材」、つまりその地域で育ち、加工された木材の利用です。

地域材を選ぶことは、脱炭素に貢献するだけでなく、日本の林業や地方経済を元気にする大きな力を持っています 。  

日本の森林の多くは、戦後に植林されたものが成熟し、まさに「使い時」を迎えています。

しかし、林業の担い手不足や木材価格の低迷により、手入れが行き届かない森林も少なくありません。

私たちが地域材を積極的に使うことで、木材の需要が生まれ、林業経営が安定します。

それにより、林業家は木を伐採した後に再び木を植え、森を育てるという「持続可能な森林管理」のサイクルを回すことができるのです 。  

さらに、林業が活性化すれば、伐採、運搬、製材といった関連産業にも仕事が生まれ、雇用が創出されます 。

地域でお金が循環し、経済が活性化する効果は絶大です。

都市部の建築プロジェクトが、地方の経済と社会を支える。木材の地産地消は、環境と経済の両方に貢献する、未来につながる選択なのです。  

まとめ

本記事では、脱炭素社会の実現に向けて、建築分野、特に非住宅における木造化・木質化がいかに重要であるか、そしてそれがビジネスにどのような価値をもたらすかを解説してきました。

地球温暖化対策は、もはや他人事ではなく、すべての企業が取り組むべき経営課題です。

その中で、再生可能資源である木材の活用は、日本の豊富な森林資源を活かした、極めて効果的で合理的な解決策と言えます。

木材が持つ「炭素貯蔵」「マテリアル置換」「エネルギー代替」という3つの力は、建築物のライフサイクル全体でのCO2排出量削減に大きく貢献します。

かつて木造建築の課題とされた耐火性や耐震性も、技術革新によって大きく向上しました。

CLTのような新しい建材の登場は、大規模・中高層建築における木材利用の可能性を飛躍的に広げています。

さらに、「都市の木造化推進法」や各種補助金制度といった国の強力な後押しもあり、今まさに「ウッド・チェンジ」の波が到来しています。

木造化・木質化は、単なる環境対策に留まりません。

ESG経営への貢献による企業価値の向上、働く人のウェルビーイング向上、そして地域経済の活性化など、多岐にわたるメリットをもたらします。

この大きな変化の潮流をチャンスと捉え、新たな一歩を踏み出すことが、これからの建築実務者には求められています。

私たち「モクプロ」は、そんな皆様の挑戦に寄り添い、専門的な知見とネットワークで成功へと導くプラットフォームです。

木造化・木質化に関するご相談は、ぜひお気軽にお寄せください。

ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援

非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。

諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。

木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。

ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。

「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための実務支援チームです。

◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出

◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築

【主なサービス内容】

◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等

◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等

◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等

木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。

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著者

一級建築士。群馬県出身。芝浦工業大学卒業後、設計事務所・工務店・木構造材メーカー勤務を経て、2015年にハウス・ベース株式会社を起業。事業内容:住宅・建築関連の業務支援。特に非住宅用途の木造化・木質化支援(広報支援・設計支援・実務支援)に注力。木造非住宅オウンドメディア「モクプロ」を運営。

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