【設計】木造非住宅の設計|企画・基本設計の重要ポイント

【設計】木造非住宅の設計|企画・基本設計の重要ポイント

近年、オフィスや店舗、倉庫といった「非住宅」の分野で、木造建築への注目が急速に高まっています。

市場規模は拡大を続け、2030年度には1兆円を超える巨大マーケットになると予測されているほどです 。

この背景には、脱炭素社会の実現に向けた世界的な潮流や、ESG投資への関心の高まりがあります 。

しかし、多くの設計事務所や工務店、建設会社の皆様にとって、非住宅の木造化はまだ未知の領域かもしれません。

「何から始めればいいのか」

「法規やコスト面が不安だ」

といった声も少なくないでしょう。

プロジェクトの成否は、初期段階である「企画・基本設計」でその大半が決まると言っても過言ではありません。

本記事では、この最も重要なフェーズに焦点を当て、非住宅木造の設計で押さえるべきポイントを、実務に役立つ形で分かりやすく解説していきます。  

INDEX

なぜ今、非住宅の木造化が注目されるのか?

なぜ今、非住宅の木造化が注目されるのか?

非住宅分野で木造化が「選ばれる」理由は、もはや単なるデザインの好みやコストの問題だけではありません。

それは、社会全体の価値観の変化と深く結びついています。

地球環境への配慮が企業経営の必須課題となり、サステナビリティ(持続可能性)が事業の根幹をなす時代になりました。

木造建築は、こうした時代の要請に応える具体的なソリューションとして、大きな可能性を秘めています。

法制度の整備も進み、技術革新によってこれまで木造では難しいとされてきた中高層の建物も実現可能になっています 。

この章では、非住宅木造化を後押しする3つの大きな力、「環境・ESG」「法律・政策」「企業価値」について掘り下げ、なぜ今が木造建築に取り組む絶好の機会なのかを解説します。

この大きな流れを理解することが、クライアントへの的確な提案とプロジェクトの成功に向けた第一歩となるでしょう。  

脱炭素社会への貢献とESG投資の潮流

脱炭素社会の実現は、今や世界共通の目標です。

建築業界もその例外ではなく、建設時や運用時のCO2排出量削減が大きな課題となっています。

ここで木造建築が果たす役割は非常に大きいと言えます。

鉄やコンクリートといった他の主要建材に比べ、木材は製造時のエネルギー消費量が格段に少なく、建設段階でのCO2排出量を大幅に削減できます 。

さらに、樹木は成長過程で光合成によって大気中のCO2を吸収し、伐採されて建材になった後も炭素を内部に固定し続けます 。

つまり、木造建築は「第二の森林」や「炭素の貯蔵庫」として、都市の中に存在し続けるのです。

この環境性能の高さは、近年重要視されているESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも高く評価されています 。

環境(E)への配慮はもちろん、木質空間がもたらす快適性や健康増進効果は社会(S)的な価値を高め 、持続可能な森林から産出された認証材を使うことは企業統治(G)の姿勢を示すことにも繋がります 。

投資家や金融機関も企業のESGへの取り組みを重視しており、木造建築の採用は、資金調達や企業評価において有利に働く可能性を秘めているのです。  

「都市の木造化推進法」が後押しする市場の拡大

非住宅木造化の大きな追い風となっているのが、法律による後押しです。

2010年に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」は、当初その名の通り、国や自治体が建てる公共建築物を対象としていました。

この法律により、学校や役場などで木造化・木質化が進みましたが、2021年に大きな転換点を迎えます。

法律の名称が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」、通称「都市の木造化推進法」へと変わり、その対象が公共建築物だけでなく、民間企業が建てるオフィスや店舗、倉庫などを含む「建築物一般」へと拡大されたのです 。

これは、国が都市部も含めたあらゆる場所で木材利用を促進するという強い意志の表れです。

法律の名称に「脱炭素社会の実現」という言葉が加わったことも重要で、木材利用が国の気候変動対策の柱の一つとして明確に位置づけられました 。

この法改正は、単なる努力目標を掲げるだけでなく、事業者が自治体と連携して木材利用を進めるための「建築物木材利用促進協定」といった具体的な制度も設けており 、木造化に取り組む企業へのサポート体制も強化されています。  

木造建築がもたらす企業価値とブランディング効果

木造建築を選ぶことは、コストや機能といった側面だけでなく、企業のブランドイメージを向上させる強力な一手となり得ます。

木をふんだんに使ったオフィスや店舗は、訪れる人々に温かみや安らぎを与え、居心地の良い空間を創り出します 。

これは、従業員の満足度や生産性の向上、あるいは店舗への集客力アップといった直接的なビジネス効果にも繋がる可能性があります 。

さらに重要なのは、木造建築が企業の姿勢を社会に発信する「メッセージ」となる点です。

国産材や地域材を積極的に活用すれば、国内の林業振興や地域経済の活性化に貢献していることをアピールできます。

また、サステナブルな資源である木を選ぶという行為そのものが、環境問題に真摯に取り組む企業であることの証明になります 。

近年、消費者は製品やサービスを選ぶ際に、その企業の社会的な姿勢を重視する傾向が強まっています。

木造の社屋や店舗は、そうした消費者や取引先、さらには未来の従業員に対して、言葉以上に雄弁に企業の価値観を伝え、ポジティブな印象を与える強力なブランディングツールとなるのです。  

プロジェクト成功の第一歩!企画段階で決めるべきこと

プロジェクト成功の第一歩!企画段階で決めるべきこと

どんな建築プロジェクトも、その成否は最初の「企画段階」で大きく左右されます。

特に、まだ馴染みの薄い非住宅木造においては、この段階での的確な判断が極めて重要です。

鉄骨造やRC造の感覚で計画を進めてしまうと、後から設計変更や大幅なコストアップに見舞われかねません。

「この建物は、本当に木造で建てるのがベストなのか?」という根本的な問いから始まり、事業全体の収支計画、そしてプロジェクトを推進するチーム作りまで、初期段階で固めておくべきことは数多くあります。

この章では、プロジェクトを成功に導くために、企画段階で必ず押さえておきたい3つの重要ポイント、

「用途・規模の検討」

「コスト計画」

「チーム編成」

について、具体的な判断基準を交えながら解説します。

ここでの検討が、後の設計・施工プロセスをスムーズに進めるための羅針盤となります。

用途・規模から考える木造の向き不向き

すべての建物が木造に適しているわけではありません。

木造のメリットを最大限に活かすには、その建物の用途や規模との相性を見極めることが大切です。

一般的に、木造との相性が非常に良いとされるのは、福祉施設、クリニック、学校、保育所といった、人の温もりが求められる低層の建物です 。

これらの施設では、住宅で培われた技術や流通している部材を応用しやすく、コスト面でも有利になることが多いです 。

一方で、オフィスや商業施設、倉庫といった用途でも木造化は進んでいます。特に、柱や梁の少ない大空間が求められる倉庫では、木材の高い断熱性が結露防止に役立つというメリットもあります 。

ただし、鉄骨造のように数十メートルに及ぶ無柱空間を経済的に実現するには、トラス構造などの工夫が必要になります 。

また、建物の規模が大きくなるほど、あるいは高層になるほど、耐火性能に関する規制が厳しくなり、特殊な材料や工法が必要となってコストが上昇する傾向があります 。

企画段階で、計画している建物の用途や規模が、木造の「得意分野」に合っているか、それとも技術的な挑戦が必要な領域なのかを冷静に判断することが、現実的なプロジェクト計画の第一歩です。  

事業計画とコストの初期検討

「木造は鉄骨造より高いのか、安いのか」これは多くの人が抱く疑問でしょう。

国土交通省の統計データを見ると、例えば事務所の坪単価は木造が約57万円であるのに対し、鉄骨造は約106万円と、データ上は木造にコスト的な優位性があるように見えます 。

しかし、これはあくまで平均値であり、実際のコストは設計内容や規模、求められる性能によって大きく変動します。

木造のコストメリットとしては、建物が軽量なため基礎工事費を削減できる点 や、法定耐用年数が短いため減価償却で税制上有利になる点 が挙げられます。

一方で、特殊な大断面の部材を使ったり、高い耐火性能が求められたりすると、コストアップの要因となります 。

企画段階では、こうしたメリット・デメリットの両方を踏まえ、概算の建築費を把握し、事業全体の収支計画に落とし込むことが不可欠です。

どの部分にこだわり、どこでコストを抑えるか、メリハリのある資金計画を立てることが、プロジェクトの実現性を高める鍵となります。  

チーム編成の重要性:専門家との早期連携

非住宅木造のプロジェクトを成功させるためには、適切な専門家と早い段階からチームを組むことが非常に重要です。

特に、木構造に関する深い知識と経験を持つ構造設計者や、木造の施工実績が豊富な工務店・建設会社の協力は欠かせません。

意匠設計者が鉄骨造やRC造の感覚でプランニングを進めてしまうと、木造では構造的に成り立たなかったり、非効率でコストのかかる設計になったりする恐れがあります 。

例えば、木造で効率的な構造を計画するには、柱や梁をどのような間隔で配置するか(構造グリッド)が重要になりますが、これは意匠設計と密接に関わります。

そのため、企画の初期段階、できればプランを固める前から構造の専門家を交えて検討を進めるのが理想です。

また、使用する木材の調達ルートや加工方法についても、プレカット工場や木材供給者と早期に協議することで、手戻りのないスムーズな計画が可能になります。

意匠・構造・施工、そして材料供給の各専門家が一体となったチームを早期に組成し、知見を出し合いながら計画を進めることが、質の高い木造建築を実現するための最短ルートと言えるでしょう 。  

設計の自由度と制約を理解する!基本設計の法規チェック

設計の自由度と制約を理解する!基本設計の法規チェック

企画段階でプロジェクトの骨格が固まったら、次はいよいよ基本設計のフェーズです。

ここでは、建築基準法をはじめとする様々な法規制をクリアしながら、具体的な建物の形を創り上げていきます。

特に木造建築においては、高さや規模、そして防火に関する規定が設計の自由度を大きく左右します。

かつては厳しい規制から木造での実現が難しかった建物も、近年の相次ぐ法改正によって、その可能性は大きく広がりました。

しかし、これらのルールを正しく理解し、設計に活かさなければ、せっかくの可能性も絵に描いた餅になってしまいます。

この章では、非住宅木造の基本設計を進める上で避けては通れない法規のポイントを解説します。

規制を単なる「制約」と捉えるのではなく、設計の可能性を広げる「ツール」として使いこなすための知識を身につけましょう。

建築基準法改正のポイント:高さ・規模の規制緩和

近年の建築基準法改正は、非住宅木造の設計者にとって大きな追い風となっています。

特に重要なのが、高さと規模に関する規制の合理化です。

まず覚えておきたいのが「高さ16m」という基準です。

3階建て以下で高さが16m以下の木造建築物は、厳しい耐火性能が求められないため、設計の自由度が高く、コストも抑えやすくなります 。

この範囲内で計画できるかが、一つの大きな分岐点となります。

また、延べ面積が3,000㎡を超える大規模な建物についても、規制が合理化されました。

以前は建物全体を耐火構造にする必要がありましたが、改正により、耐火性能のある壁や床で区画すれば、その区画内を木造にすることが可能になったのです 。

これらの法改正のポイントを理解し、計画に活かすことで、これまで諦めていた規模の建物でも木造化を実現できる可能性が広がります。  

防火・準防火地域で木造を実現するための注意点

都市部の多くは、火災の延焼を防ぐために「防火地域」や「準防火地域」に指定されています。

これらの地域では、建物の規模や階数に応じて、通常の地域よりも厳しい耐火性能が求められます。

計画する敷地がこれらの地域に指定されているかどうかは、設計の前提条件となるため、必ず最初に確認しなければなりません 。

例えば、防火地域内で延べ面積が100㎡を超える建物を建てる場合、原則として耐火建築物にする必要があります 。

準防火地域でも、4階建て以上または延べ面積が1,500㎡を超える建物は耐火建築物にしなくてはなりません 。

こうした厳しい条件下でも、後述する耐火技術の進歩により、木造で建てることは可能です。

ただし、当然ながら仕様が高度になる分、コストは上昇します。

基本設計の段階で、敷地の防火規制を正確に把握し、求められる耐火性能と、それに伴う建物の仕様やコストを検討しておくことが、後々の計画変更を防ぐために不可欠です。  

「木を見せる」設計を可能にする耐火技術

木造建築の大きな魅力の一つは、木の柱や梁がもたらす温かみのある空間です。

しかし、耐火建築物にするためには、構造材である木部を石膏ボードなどで覆ってしまう「被覆型」が一般的で、せっかくの木の質感が見えなくなってしまうという課題がありました。

このジレンマを解決したのが、近年の耐火技術の進歩です。

例えば、燃えしろ設計の考え方を応用した「燃エンウッド」に代表されるような耐火集成材は、部材自体が耐火性能を持っているため、石膏ボードで覆うことなく、木材をそのままデザインとして見せる「あらわし」設計が可能になります 。

法改正もこの動きを後押ししており、延べ面積3,000㎡を超える大規模建築物でも、一定の条件を満たせば「あらわし」での設計が認められるようになりました 。

これにより、高い耐火性能が求められる都市部のオフィスや商業施設などでも、木の魅力を存分に活かした、付加価値の高い空間を創り出すことができます。

基本設計の段階で、こうした新しい技術の採用を検討することで、デザインの可能性は大きく広がります。  

コストとデザインを両立させる構造計画のポイント

コストとデザインを両立させる構造計画のポイント

基本設計において、法規と並行して進める最も重要な検討事項が「構造計画」です。

どのような工法を選び、柱や梁をどう配置するかは、建物のデザイン、コスト、そして性能のすべてを決定づける根幹となります。

特に非住宅建築では、オフィスや店舗、倉庫など、用途によって柱のない広い空間(大スパン)が求められることが多く、これをいかに効率的かつ経済的に実現するかが設計者の腕の見せ所です。

木造には、伝統的な工法から最新の技術まで、様々な選択肢があります。

それぞれの特徴を理解し、プロジェクトの目的や予算に最適なものを選ぶことが、コストとデザインのバランスを取る上で不可欠です。

この章では、代表的な木構造の種類とその選び方、大スパンを実現するための技術、そしてコストを意識した設計のコツについて解説します。

在来、ツーバイフォー、ラーメン、CLT工法の違いと選び方

非住宅木造で用いられる主な構造形式には、それぞれに特徴があります。

まず、日本の伝統的な工法を発展させた「在来軸組工法」は、柱と梁で骨格を組む「線」の構造です。

設計の自由度が高く、間取りや開口部を比較的自由に計画できるのが魅力で、小規模な事務所や福祉施設などに向いています 。

次に、「枠組壁工法(ツーバイフォー)」は、規格化された木材の枠に構造用合板を張ったパネルで構成する「面」の構造です。

耐震性が高く、工期が短いというメリットがありますが、壁で建物を支えるため間取りの自由度は低くなります 。

大きな開口部や柱のない空間が欲しい場合には、「集成材ラーメン構造」が有効です。

これは、強度の高い集成材の柱と梁を強固に接合することで、耐力壁なしで骨組みを成立させる工法で、店舗やオフィスに適しています 。

そして近年注目されているのが「CLTパネル工法」です。

CLTという巨大な木の板そのものが壁や床になる工法で、工場生産による品質の安定と工期の短縮が大きなメリットです 。

どの工法を選ぶかは、建物の用途、規模、デザインの要望、そしてコストを総合的に判断して決定します。  

大スパン・無柱空間を実現する木構造テクニック

倉庫や体育館、イベントホールなど、柱のない広大な空間が求められる場合、木造でも様々な技術で対応することが可能です。

最も一般的な手法の一つが「トラス構造」です。

木材やLVL(単板積層材)といった材料を三角形に組み合わせることで、部材そのものは細くても、構造全体として強度を出し、10mから20mを超えるスパンを経済的に実現できます 。

これは倉庫や工場の屋根によく用いられる技術です。

また、構造用集成材を大きな断面の梁としてそのまま架ける「大断面集成材」も、力強いデザインと構造性能を両立できる魅力的な選択肢です 。

さらに、駅の屋根のようなアーチ構造や、木と鉄骨を組み合わせたハイブリッドな立体構造などを採用すれば、より大規模で象徴的な大空間を創り出すことも技術的には可能です 。

プロジェクトで求められるスパンの大きさに応じて、これらの技術を適切に選択、あるいは組み合わせることが重要です。  

コストを抑える設計のコツ:グリッド計画と材料選定

木造非住宅のコストを抑える上で、最も効果的なのは設計段階での工夫です。

その鍵となるのが「構造グリッドの合理化」です。

構造グリッドとは、柱や梁を配置する際の基準となる格子状の線のことで、これを規則正しく、効率的に計画することがコストダウンに直結します 。

なぜなら、不規則なグリッドは特殊な長さや形状の部材を必要とし、材料費も加工費も高くなってしまうからです。

一般的に流通している3mや4mといった標準的な長さの木材を無駄なく使えるようにグリッドを計画することが、基本中の基本と言えます 。

また、材料の選定も重要です。

特別なオーダーメイド品は避け、JAS規格品などの一般的に流通している材料を前提に設計することで、コストを抑え、かつ調達もしやすくなります 。

すべての空間で最高級の仕様を目指すのではなく、例えばお客様を迎えるエントランスは木をあらわしにした見栄えのするデザインにし、バックヤードはより経済的な工法を選ぶといった、計画にメリハリをつけることも有効なコスト管理の手法です 。  

失敗しないための性能計画と設計プロセスの注意点

失敗しないための性能計画と設計プロセスの注意点

建物の価値は、デザインや構造だけで決まるものではありません。

そこで過ごす人々が、夏は涼しく冬は暖かく、静かで快適に過ごせるか、といった「性能」も非常に重要です。

木造建築は、木材そのものが持つ断熱性や調湿性といった優れた特性を持っていますが、その性能を最大限に引き出すには、設計段階での細やかな配慮が不可欠です。

また、現代の木造建築、特にプレカット材やCLTパネルを用いる場合は、設計のプロセスそのものにも注意が必要です。

鉄骨造のように現場で部材を切ったり溶接したりといった調整が難しいため、設計段階での図面の精度が、そのまま建物の品質とコストに直結します。

この章では、快適で長持ちする建物を実現するための性能計画と、プロジェクトを円滑に進めるための設計プロセスのポイントについて解説します。

快適な温熱環境と音響性能を実現する設計

木はコンクリートの約11倍、鉄の約350倍も熱を伝えにくい、優れた断熱材です 。

しかし、建物全体の断熱性能を高めるには、木材の性能だけに頼るのではなく、建物全体を一つのシステムとして考える必要があります。

壁や屋根に入れる断熱材を隙間なく連続させること、窓などの開口部の性能を高めること、そして目に見えない空気の漏れをなくす「気密性」の確保が重要です 。

特に、壁の中で結露が発生すると、構造材を傷める原因になるため、湿気を適切に排出する計画も欠かせません 。

また、木造は鉄筋コンクリート造に比べて軽量なため、上下階の足音や隣室からの話し声といった「音」の問題にも配慮が必要です。

設計の初期段階から、壁や床を二重にする、吸音材を効果的に使うといった具体的な音響対策を計画に盛り込むことで、静かでプライバシーが守られる快適な環境を実現できます 。  

意匠・構造・設備の連携ミスを防ぐBIM活用のすすめ

非住宅木造の設計で最も起こりがちで、かつ致命的な失敗の一つが、意匠・構造・設備の各設計者間の連携不足です。

「デザインが決まった後に、構造的に必要な場所に大きな梁が出てきてしまった」

「空調のダクトを通すスペースがなく、天井を低くせざるを得なくなった」

といった問題は、後から修正しようとすると大幅なコスト増や工期の遅れに繋がります 。

特に、工場で精密に加工されるプレカット材やCLTパネルを用いる場合、現場での調整はほぼ不可能です 。

この問題を解決する強力なツールがBIM(Building Information Modeling)です。

BIMを使えば、コンピューター上に3Dの建物モデルを構築し、意匠・構造・設備の情報を統合できます。

これにより、設計段階でダクトと梁がぶつかる(干渉する)といった不整合を事前に発見し、修正することが可能です。

現代の木造建築において、BIMは単なる便利なツールではなく、手戻りを防ぎ、プロジェクトの品質を確保するための「必須のリスク管理ツール」と考えるべきでしょう。  

サプライチェーンを意識した材料調達と工程計画

設計がどれだけ素晴らしくても、必要な木材が、必要な時に現場に届かなければ建物は建ちません。

近年の「ウッドショック」は、木材の供給が国際情勢や物流の影響を大きく受けることを私たちに示しました 。

この経験から学ぶべきは、設計の初期段階から材料のサプライチェーン(供給網)を意識することの重要性です。

特殊な寸法や樹種の木材は、納期が長くなったり、価格が変動したりするリスクがあります。

調達のリスクを減らすためには、なるべく広く流通している標準的な寸法の材料で設計すること、そして国産材や地域の木材を積極的に活用することを検討するのが賢明です 。

また、プロジェクト全体の工程計画においても、木造特有のポイントがあります。

例えば、集成材やCLTパネルは工場での製作期間(リードタイム)が必要です。

また、基礎工事や木材を組み上げる建方工事は天候の影響を受けやすいため、スケジュールには余裕を持たせておくことが大切です 。

サプライヤーや施工会社と早期に連携し、現実的な調達計画と工程を立てることが、プロジェクトを計画通りに進めるための鍵となります。  

まとめ  

まとめ 木造非住宅 設計

本記事では、非住宅木造建築のプロジェクトを成功に導くため、特に重要な「企画・基本設計」段階で押さえるべきポイントを解説してきました。

市場の動向から法規制、構造計画、そして設計プロセスに至るまで、多岐にわたる検討事項があり、その複雑さに戸惑いを感じた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、これらの要点を突き詰めると、成功の鍵は4つの基本原則に集約されます。

第一に、「技術的だけでなく戦略的に思考する」こと。

木造化を単なる工法の選択ではなく、ESGや企業価値向上といった経営戦略の一環として捉える視点が重要です。

第二に、「法規制を使いこなす」こと。

進化し続ける法律を単なる制約ではなく、新たな設計の可能性を切り拓くためのツールとして積極的に活用する姿勢が求められます。

第三に、「初日から統合する」こと。

意匠・構造・設備の専門家がプロジェクトの最初期から連携し、BIMなどのツールを駆使して一体で計画を進めるプロセスが不可欠です。

そして最後に、「サプライチェーンを意識して設計する」こと。

材料調達の現実を見据え、安定的かつ効率的に入手できる材料を前提とした合理的な設計を心掛けることが、プロジェクトの実現性を高めます。

非住宅の木造化は、確かに新たな挑戦です。

しかし、その先には、環境に貢献し、人々に愛され、企業価値をも高めるという大きな可能性があります。

この記事が、皆様の挑戦の一助となれば幸いです。

私たち「モクプロ」は、これからも実務に役立つ知識と情報を提供し、木造化・木質化に挑戦する皆様のパートナーとして、その成功をサポートしてまいります。

ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援

非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。

諸問題を解決して、木造化・木質化を実現するには、「木が得意な実務者メンバー」による仕事が必要不可欠です。

木造非住宅ソリューションズでは、発注者の課題に対して、最適な支援をご提案します。

ハウス・ベース株式会社は、建築分野の木造化・木質化を支援するサービスである「木造非住宅ソリューションズ」を展開しています。

「木造非住宅ソリューションズ」とは、脱炭素社会実現に向けて、建築物の木造化・木質化に関する課題解決に貢献するための実務支援チームです。

◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出

◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築

【主なサービス内容】

◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等

◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等

◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等

木造化・木質化で専門家の知見が必要な場合は、ぜひハウス・ベース株式会社までお気軽にお問合せください。

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著者

一級建築士。群馬県出身。芝浦工業大学卒業後、設計事務所・工務店・木構造材メーカー勤務を経て、2015年にハウス・ベース株式会社を起業。事業内容:住宅・建築関連の業務支援。特に非住宅用途の木造化・木質化支援(広報支援・設計支援・実務支援)に注力。木造非住宅オウンドメディア「モクプロ」を運営。

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