
「脱炭素社会」「カーボンニュートラル」といった言葉を耳にしない日はないほど、環境への配慮はあらゆるビジネスにおいて重要な経営課題となっています。
特に、世界のCO2排出量の多くを占める建設業界では、この課題への取り組みが企業の未来を左右すると言っても過言ではありません。
クライアントから「環境に配慮した建築はできないか?」といった相談を受ける機会も増えているのではないでしょうか。
そこで今、大きな注目を集めているのが「木造建築」です。
特にオフィスビルや商業施設といった非住宅分野での木造化・木質化は、脱炭素社会を実現するための強力な解決策として期待されています。
しかし、
「なぜ木造が環境に良いのか、科学的な根拠を具体的に説明できるか」
「施主や投資家にその価値をどう伝えれば良いのか」
「耐火性やコスト面での不安はないのか」
といった疑問や不安を抱える実務者の方も多いかもしれません。
この記事では、そんな建築実務者の皆様が抱える不安に寄り添い、木造建築が持つ脱炭素への貢献価値を分かりやすく解説します。
科学的な根拠から、SDGsやESG投資といった経営視点でのメリット、さらには設計・実務上の課題をクリアする最新技術までを網羅。
この記事を読めば、自信を持ってクライアントに木造建築を提案し、新たなビジネスチャンスを掴むための「ナレッジ」が手に入ります。
なぜ木造建築は脱炭素に貢献するのか?科学的な2つの理由

木造建築が「環境に優しい」と言われるのには、明確な科学的根拠があります。
それは、単に自然素材だからというイメージだけではありません。
木材というマテリアルが持つユニークな特性が、地球温暖化の原因となるCO2に対して、2つの側面から強力な削減効果を発揮するのです。
一つは、樹木が成長する過程でCO2を吸収し、木材になった後も内部に閉じ込め続ける「炭素貯蔵効果」。
もう一つは、鉄やコンクリートといった他の主要な建材に比べて、製造・加工段階で排出するCO2量が圧倒的に少ない「省エネ製造プロセス」です。
この「CO2を減らす」と「CO2を閉じ込める」という二重のメリットこそが、木造建築が脱炭素のエースとして期待される最大の理由なのです。
この章では、この2つのメカニズムを深掘りし、なぜ木造が選ばれるべきなのかを明らかにしていきます。
CO2を吸収して貯め込む「炭素貯蔵効果」
樹木は、光合成によって大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、それを栄養源として成長します 。
この過程で、CO2の構成要素である炭素(C)は、木の幹や枝の中に有機物として固定されます。
いわば、木は成長するだけで、自動的に大気中のCO2を減らしてくれる存在なのです。
この話の重要なポイントは、樹木が伐採され、柱や梁といった「木材」に加工された後も、その炭素は内部に安定して貯蔵され続けるという点です 。
木材が燃えたり腐ったりしない限り、貯め込まれた炭素がCO2として再び大気中に放出されることはありません。
この特性から、木材は「炭素の缶詰」とも呼ばれています 。
この考え方を都市に当てはめると、木造のオフィスビルや商業施設を建てることは、都市の中に巨大な「炭素の缶詰」を設置するようなものです。
建物は何十年、場合によっては100年以上にわたって利用されます。
その長い期間、建物自体が炭素を固定し続ける、いわば「都市の森林」や「第二の森林」としての役割を果たすのです 。
これは、他の建材にはない、木材だけが持つ非常にユニークで強力な環境貢献と言えるでしょう。
建設時のCO2排出を抑える「省エネ製造プロセス」
建物の環境性能を考えるとき、暖房や冷房で消費されるエネルギーだけでなく、建材の製造から建設、解体までの全過程で排出されるCO2、いわゆる「エンボディドカーボン」を考慮することが世界的な潮流となっています 。
特に建設段階でのCO2排出量は非常に大きく、これをいかに削減するかが脱炭素化の鍵を握ります。
この点で、木材は他の主要建材に比べて圧倒的な優位性を持っています。
例えば、鉄は鉄鉱石を高温で溶かして精錬し、コンクリートの原料であるセメントは石灰石を高温で焼成する必要があり、どちらも製造過程で膨大なエネルギーを消費し、大量のCO2を排出します 。
一方、木材の加工は、主に切断、乾燥、接着といった物理的な処理が中心です。
そのため、製造に必要なエネルギー消費量が鉄やコンクリートに比べて格段に少なく、結果としてCO2排出量も大幅に抑制できるのです 。
さらに、木材は鉄やコンクリートよりも軽量なため、工場から現場までの輸送にかかるエネルギーも削減できます 。
特に、国産材や地域産材を活用すれば、輸送距離が短縮され、カーボンフットプリントをさらに小さくすることが可能です。
鉄やコンクリートとのCO2排出量の違いを比較
では、実際に木造は他の構造と比べて、建設時のCO2排出量がどれくらい少ないのでしょうか。
複数の調査報告が、その優位性を具体的な数値で示しています。
例えば、ある調査では、事務所(オフィスビル)を建てる際の床面積あたりのCO2排出量は、木造が鉄筋コンクリート造(RC造)の約4割、鉄骨造(S造)の約7割にまで抑えられると報告されています 。
また、別の資料では、木造事務所は鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の事務所と比較して、CO2排出量が半分以下であるとも示されています 。
住宅で比較したデータもあります。
一戸建て住宅の主要な材料を製造する際のCO2排出量を比べると、木造住宅に対してRC造住宅は約4.2倍、S造住宅は約2.9倍のCO2を排出するという結果もあります。
これらの数値は、調査の前提条件によって多少変動しますが、一貫して「木造が最もCO2排出量が少ない」という傾向を示しています。
この事実は、施主や投資家に対して木造建築の環境価値をアピールする上で、非常に強力な根拠となります。
脱炭素化が社会全体の目標となる中、構造形式の選択がこれほど大きなインパクトを持つということを、具体的なデータと共に伝えることが重要です。
数字で見る木造建築の環境インパクト

木造建築の環境への貢献をクライアントや社会に効果的に伝えるためには、「なんとなく環境に良さそう」というイメージだけでなく、客観的な「数字」で示すことが不可欠です。
定量的なデータは、提案の説得力を飛躍的に高め、企業の環境への取り組みを具体的にアピールするための強力な武器となります。
特に、木材がどれだけの炭素を貯蔵しているのか、そして他の構造と比べてどれだけCO2排出を削減できるのかを数値化し、それを誰もが理解しやすい身近なものに例える「見える化」は、広報戦略において極めて重要です。
この章では、木造建築の環境インパクトを具体的に算出し、効果的に伝えるための実践的な方法について解説します。
CO2をどれだけ貯蔵できる?具体的な計算方法
自社のプロジェクトで採用した木造建築が、どれくらいのCO2を貯蔵しているのかを具体的に示すことができれば、企業の環境貢献度をアピールする上で大きな強みになります。
実は、この炭素貯蔵量は、林野庁が定めたガイドラインに沿って、誰でも計算することが可能です 。
計算式は以下の通りです。
炭素貯蔵量 (t-CO2) = 木材の量 (m³) × 木材の密度 (t/m³) × 木材の炭素含有率 × 44/12
少し難しく見えるかもしれませんが、各項目は以下の内容を示しています 。
- 木材の量 (W): 建物に使用した木材の総体積です。
- 木材の密度 (D): 木の種類(樹種)によって決まる値です。
- 木材の炭素含有率 (Cf): 木材に含まれる炭素の割合で、通常は0.5(50%)とされています。
- 44/12: 炭素(C)の重さを二酸化炭素(CO2)の重さに換算するための係数です。
例えば、スギやヒノキといった一般的な木材の密度や炭素含有率のデータは公表されており、林野庁のウェブサイトでは、これらの数値を入力するだけで自動的に炭素貯蔵量を計算してくれるExcelシートも提供されています 。
これらを活用すれば、専門家でなくても自社の建築物の炭素貯蔵量を算出し、具体的な数値として広報資料やサステナビリティ報告書に記載することができます。
環境貢献度をアピールする「見える化」のテクニック
算出した炭素貯蔵量を、ただ「〇〇t-CO2を貯蔵しています」と伝えるだけでは、そのインパクトはなかなか伝わりにくいものです。
そこで重要になるのが、その数値を身近なものに例えて「見える化」するテクニックです。
これも林野庁のガイドラインで具体的な例が示されており、多くの企業がCSR活動のアピールに活用しています 。
【見える化の具体例】
- 森林面積に例える: 「この建物に貯蔵されている炭素量は、スギ人工林〇〇ヘクタール分(または東京ドーム〇個分)のCO2蓄積量に相当します」 。
- 家庭や個人の排出量に例える: 「この炭素貯蔵量は、〇〇世帯の年間CO2排出量(または〇人分の年間排出量)に相当します」 。
- 自動車の走行距離に例える: 「この建物が固定しているCO2は、乗用車が地球を〇周走行した際の排出量に相当します」 。
例えば、一般的な木造住宅一棟(木材使用量約24.9m³)で約15.1トンのCO2を貯蔵しており、これは日本人一人当たりのCO2排出量の約8年分に相当するという試算もあります 。
このような具体的な比較を用いることで、専門知識がない人にも木造建築の環境貢献の大きさを直感的に、そしてインパクトをもって伝えることが可能になります。
他の構造と比べて建設時のCO2排出量はどれだけ少ない?
木造建築の環境優位性を示すもう一つの重要な指標が、建設時におけるCO2排出量の削減効果です。
前述の通り、木造は鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)に比べて、材料の製造・加工に必要なエネルギーが少なく、CO2排出量を大幅に抑制できます。
この差を具体的な数値で比較したデータは、クライアントへの提案資料や企業の広報活動において非常に有効です。
以下に、各種調査から得られた比較データをまとめました。
【建築構造別の建設時CO2排出量比較(木造を1とした場合)】
| 建築物の種類 | 鉄骨造(S造) | 鉄筋コンクリート造(RC造) |
| オフィスビル | 約1.4倍 20 | 約2.5倍 20 |
| 住宅 | 2.5~2.9倍 28 | 3.5~4.2倍 28 |
この表から分かるように、特にRC造と比較した場合、木造建築は建設時のCO2排出量を半分以下、場合によっては4分の1近くまで削減できるポテンシャルを持っています。
脱炭素化への取り組みが企業の評価を大きく左右する現代において、「建物の構造を木造に変えるだけで、これだけのCO2削減に貢献できる」という事実は、非常に強力なメッセージとなります。
この定量的なデータを活用し、木造建築が環境経営における賢明な選択であることを具体的に示していきましょう。
企業価値を高める!木造建築とSDGs・ESG投資の関係

現代の企業経営において、環境や社会への貢献は、もはや単なるCSR活動ではなく、企業価値そのものを左右する重要な要素となっています。
その代表的な指標が「SDGs(持続可能な開発目標)」と「ESG投資」です。
木造建築の推進は、この2つの世界的な潮流と非常に親和性が高く、採用することで企業のサステナビリティ経営を加速させ、社会的な評価を高める強力な一手となり得ます。
建築実務者としては、単に建物を設計・施工するだけでなく、木造建築がもたらす経営上のメリットを理解し、クライアントに提案できるかどうかが、他社との差別化を図る上で重要になります。
この章では、木造建築がどのようにSDGs達成に貢献し、ESG投資家から評価されるのか、先進企業の事例を交えながら解説します。
木造建築が貢献するSDGsの目標とは?
SDGsは、国連が掲げる17の国際目標であり、多くの企業が自社の事業活動をこれらの目標に紐づけて報告しています。
木造建築は、複数の目標達成に直接的・間接的に貢献するため、企業のSDGsへの取り組みをアピールする上で非常に分かりやすい具体例となります 。
【木造建築が特に貢献する主なSDGsゴール】
- ゴール13「気候変動に具体的な対策を」: CO2の排出抑制と長期貯蔵により、最も直接的に貢献します 4。
- ゴール15「陸の豊かさも守ろう」: 持続可能な森林管理を促進し、森林の健全化や生物多様性の保全に繋がります 4。適切な管理のもとで「伐って、使って、植える」サイクルを回すことが、豊かな森を守ることに繋がるのです 33。
- ゴール11「住み続けられるまちづくりを」: 再生可能な資源である木材の利用は、持続可能な都市の形成に寄与します。特に地域産材の活用は、輸送エネルギーを削減し、地域のサプライチェーンを強化します 31。
- ゴール8「働きがいも経済成長も」: 国産材や地域産材の需要を創出することで、林業や製材業といった地域産業を活性化させ、地方の雇用創出に貢献します 31。
- ゴール3「すべての人に健康と福祉を」: 木の香りや温もりがもたらすリラックス効果は、働く人々の心身の健康(ウェルビーイング)を向上させることが知られています 3。
このように、木造建築は環境面だけでなく、社会・経済面においても多角的にSDGsに貢献できるポテンシャルを持っています。
投資家も注目!ESG投資で評価される木造建築の可能性
ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)への配慮を投資判断の基準にする考え方です。
今や世界の投資の主流となりつつあり、企業はESGの観点からいかに持続可能な経営を行っているかを投資家に説明する責任があります。
木造建築の採用は、特に「E(環境)」の側面で企業の評価を高める強力な要素となり得ます 。
脱炭素への貢献、再生可能資源の利用、森林保全への寄与といった点は、ESG投資家に対して非常に分かりやすく、ポジティブなメッセージを発信できます。
現状では、まだ「木材利用」がESG評価の標準項目として確立されているとは言えない側面もありますが、多くの投資家はその環境価値を認識し始めています 。
これは、先進的な企業にとって大きなチャンスを意味します。
他社に先駆けて木造建築を積極的に採用し、そのCO2削減効果や炭素貯蔵量を定量的に開示することで、競合他社に先んじてポジティブなESG評価を獲得できる可能性があるのです。
建築実務者としては、クライアントに対し、木造建築が単なる建設プロジェクトではなく、企業価値を高める「投資」であるという視点を提供することが重要です。
広報・ブランディングに活かす先進企業のCSR事例
すでに国内の多くの先進企業が、自社のオフィスや施設を木造・木質化し、それを企業ブランディングやCSR活動の中核に据えています。
これらの事例は、木造建築が持つ価値を社会に伝える上で、非常に参考になります。
- 野村不動産: サービスオフィス「H¹O」シリーズや「野村不動産溜池山王ビル」などで木質化を積極的に推進。プロジェクトごとにCO2削減量や固定量を具体的に公表し、森林認証やZEB認証など複数の認証を戦略的に取得することで、信頼性の高いサステナビリティ・ストーリーを構築しています 43。
- 清水建設: 自社の北陸支店社屋などで、木と鉄骨を組み合わせたハイブリッド構造や、能登ヒバといった地域産材を積極的に活用。最新技術と地域貢献を両立させ、健康的で生産性の高いオフィス空間を実現していることをアピールしています 36。
- ヒューリック: 銀座に建設した12階建ての耐火木造商業ビルは、都市木造の象徴的な事例です。特筆すべきは「使った分を植える」というコンセプト。ビルで使用した木材に見合う量のスギの苗木を福島県に植林し、利用から再生までの一貫したストーリーを実践しています 44。
- 第一生命保険: 金融業界でありながら、宇都宮市のオフィスビルなどで木造化を推進。地域産材の活用を通じて地方創生に貢献する姿勢を明確に打ち出し、建設業界以外の企業にとっても木造建築が有効な戦略であることを示しています 45。
これらの事例から分かるように、木造建築は単なる「建物」ではなく、企業の価値観や未来へのビジョンを社会に伝える、強力な「メディア」となり得るのです。
設計・実務の課題を解決する最新木造技術

木造建築、特に非住宅分野での採用を考えたとき、多くの実務者が直面するのが「耐火性」「耐久性」「コスト」といった現実的な課題です。
クライアントから
「木造は火事に弱いのでは?」
「鉄骨やRCに比べて長持ちするのか?」
「結局、コストが高くつくのではないか?」
といった質問を受けることも少なくないでしょう。
しかし、これらの懸念の多くは、近年の目覚ましい技術革新によって解決されつつあります。
もはや木造建築は、伝統的な工法というだけでなく、最新のテクノロジーに支えられた高性能な建築手法へと進化しているのです。
この章では、設計・実務の現場で直面する課題を克服する最新の木造技術について、分かりやすく解説します。
「燃えやすい」は誤解?進化した耐火技術
「木は燃える」というイメージから、特に多くの人が集まる非住宅建築において耐火性を心配する声は根強くあります。
しかし、実は一定以上の太さや厚みを持つ木材は、火災時に優れた性能を発揮します。
木材は火にさらされると、表面に「炭化層」ができます 。
この炭化層は断熱性が高く、酸素の供給を妨げるため、火が内部の構造中心部まで燃え進むのを遅らせる効果があるのです 。
実際、火災時の高温下では、鉄骨の方が木材よりも早く強度が低下し、建物が崩壊するケースも報告されています 。
さらに近年では、木の質感や温もりをそのまま内装デザインに活かせる「耐火集成材」の開発が各社で進んでいます。
鹿島建設の「FRウッド」 、大林組の「オメガウッド」 、大成建設の石こう系耐火部材 など、これらの新技術により、都市部の防火地域に建つ中高層ビルでも、法的な耐火性能をクリアしながら、木を現しで見せるデザインが可能になりました。
これにより、安全性と意匠性を両立した、魅力的な木造建築が実現できるようになっています。
大規模建築を可能にする「CLT」とは?
近年の木造建築における最も重要な技術革新の一つが「CLT(Cross-Laminated Timber:直交集成板)」の登場です。
CLTとは、ひき板(ラミナ)の繊維方向を互いに直角に重ねて接着した、巨大な木製のパネルです 。
CLTは、コンクリートに匹敵するほどの強度と剛性を持ちながら、重さはコンクリートの約5分の1と非常に軽量です。
この特性により、従来は鉄骨造やRC造でしか不可能だった中高層のオフィスビルや商業施設、集合住宅といった大規模建築物を木造で建てることが可能になりました 。
また、CLTは工場で精密にパネルが製造され、現場ではそれを組み立てるだけなので、建設現場での作業が大幅に効率化され、工期の短縮にも繋がります。
国内でも、大林組が建設した11階建ての純木造研修施設 や、全国各地の庁舎や福祉施設などでCLTの採用が進んでおり 、非住宅木造の可能性を大きく広げるキーテクノロジーとして注目されています。
コストや耐久性に関する疑問を解消
木造建築を提案する際、必ずと言っていいほど話題になるのがコストと耐久性です。
コストについて: 特殊な大規模木造では初期コストが割高になるケースもありますが 、一般的な低層の建物では、木造は依然としてコスト効率の高い工法です 。
大規模なプロジェクトでも、木材が軽量であるために基礎工事を簡素化できたり、工場生産(プレファブ化)による工期短縮で人件費を削減できたりすることで、トータルコストを抑えられる可能性があります。
CLTなどの部材の規格化が進めば、将来的にはさらなるコストダウンも期待されています 。
耐久性について: 木造建築を長持ちさせる最大のポイントは「水分管理」です 。現代の木造建築では、壁の中に湿気を排出する通気層を設けたり、地面からの湿気を防ぐ基礎設計を行ったりと、構造体を濡らさないための工夫が標準化されています 。また、シロアリ対策についても、薬剤処理や点検しやすい設計など、様々な対策が講じられています 。適切な設計と施工、そして定期的なメンテナンスを行えば、木造建築は鉄骨造やRC造に劣らない長い耐用年数を実現することが可能です。
国も後押し!「都市の木造化推進法」で変わる未来

木造建築への関心がこれほど高まっている背景には、社会的な要請や技術革新だけでなく、国策としての強力な後押しがあります。
これまで木造建築の普及を阻んでいた法的な制約が緩和され、むしろ積極的に木材利用を促進する法整備が進んでいます。
この大きな流れを理解することは、建築実務者が今後のビジネス戦略を立てる上で非常に重要です。
特に、2021年に改正された「都市の木造化推進法」は、非住宅分野における木材利用のゲームチェンジャーとも言える法律です。
この章では、木造建築を取り巻く法的な追い風と、信頼性を担保する上で欠かせない認証制度について解説します。
法律改正で民間建築も対象に!その重要性とは
2021年、木材利用に関する法律が大きく改正され、その通称が「都市の木造化推進法」となりました 。
この法改正の最大のポイントは、木材利用を促進する対象が、それまでの「公共建築物」から、オフィスビルや商業施設などを含む「建築物一般」へと拡大された点です 。
これは、国が「脱炭素社会の実現」という大きな目標を達成するために、民間企業による木造建築の採用を本気で後押しするという明確なメッセージです。
以前は、公共建築物が木造化の主な対象でしたが、これからは民間セクターが都市の木造化を牽引する主役として期待されているのです 。
この法律は、企業が木造建築に投資する際の追い風となります。
国が推進する方針に沿った取り組みであるため、融資や補助金の面で有利になる可能性があるほか、企業の環境への取り組みとして社会的な正当性を得やすくなります。
建築実務者としては、この法改正を背景に、「今、木造建築を選ぶことは、国の政策にも合致した先進的な取り組みです」とクライアントに提案することができるのです。
サプライチェーンの証明「森林認証制度」の役割
木造建築で環境貢献をうたう上で、非常に重要になるのが「その木材がどこから来たのか」という点です。
違法に伐採された木材や、持続可能ではない方法で管理されている森林の木材を使ってしまっては、本末転倒です。
そこで、木材の出所が確かであることを証明するのが「森林認証制度」です 70。
代表的な国際的な認証制度として、「FSC(森林管理協議会)」と「PEFC(PEFC森林認証プログラム)」の2つがあります 。
これらの認証マークが付いた木材は、環境・社会・経済の観点から、適切に管理された森林から生産され、加工・流通過程でも他の木材と混ざらないように管理されていることを第三者機関が証明したものです 。
日本の「SGEC(『緑の循環』認証会議)」はPEFCと相互に承認されており、SGEC認証材を使うことでも国際的に通用する持続可能性をアピールできます 。
クライアントに木造建築を提案する際には、この森林認証を取得した木材を使用することを推奨しましょう。
これにより、サプライチェーン全体での環境配慮を証明でき、企業のCSR報告の信頼性を高めるとともに、「グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)」といった批判を避けることにも繋がります。
これからの非住宅建築で木造を選ぶべき理由
これまで見てきたように、非住宅建築において木造を選ぶ理由は、もはや単なるデザインの好みやコストの問題だけではありません。
それは、企業の未来を左右する戦略的な経営判断と言えます。
まず、脱炭素という社会全体の要請に応える最も効果的な手段の一つです。
CO2を貯蔵し、建設時の排出も少ない木造建築は、企業の環境目標達成に大きく貢献します。
次に、SDGsやESG投資といった観点から、企業価値を向上させる強力なツールとなります。
木造の社屋は、企業のサステナビリティへの姿勢を社会に示す、何より雄弁なシンボルとなるでしょう 35。
さらに、「都市の木造化推進法」という国策の後押しもあり、木造建築を選択しやすい環境はかつてないほど整っています。
CLTや耐火技術といった技術革新も、設計の自由度を高め、大規模・中高層建築への道を開きました。
これらの「社会の要請」「企業の価値向上」「政策・技術の進化」という三つの大きな潮流が、今まさに木造建築へと向かっています。
この流れをいち早く捉え、ビジネスに活かすことが、これからの建築実務者に求められるのではないでしょうか。
まとめ

今回は、脱炭素社会の実現に貢献する非住宅の木造建築について、その科学的根拠から企業価値向上への繋がり、そして最新技術までを解説しました。
木造建築の環境価値は、(1)CO2を吸収・貯蔵する「炭素の缶詰」としての効果と、(2)鉄やコンクリートに比べて建設時のCO2排出が少ない「エンボディドカーボン削減効果」という、二つの強力な根拠に支えられています。
これらの効果は定量的に「見える化」することが可能で、企業の環境貢献度を具体的かつ説得力をもって社会にアピールするための強力な武器となります。
さらに、木造建築の推進は、SDGsの複数の目標達成に貢献し、投資家が重視するESGの観点からも高く評価されるため、企業のブランドイメージや資金調達においても有利に働きます。
先進企業が次々と木造・木質化された社屋や施設を建設しているのは、それが企業のサステナビリティへの姿勢を体現する、最も分かりやすいシンボルとなるからです。
かつて課題とされた耐火性や耐久性、コストといった実務上の懸念も、CLTや耐火集成材といった技術革新によって次々と克服されています。
加えて「都市の木造化推進法」という国策の後押しもあり、今や木造建築は、一部の特殊な選択肢ではなく、あらゆる非住宅建築において検討すべき、現実的で未来志向の選択肢となっています。
私たち建築実務者は、この大きな時代の変化を捉え、木造建築が持つ多面的な価値を深く理解し、クライアントに提案していくことが求められています。
それは、地球環境への貢献であると同時に、クライアントのビジネスを成功に導き、自社の競争力を高めるための、賢明な一手となるはずです。
ハウス・ベース株式会社の木造化・木質化支援
非住宅用途の建築物で、木造化・木質化の更なる普及が期待されています。
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◾️テーマ:「(木造化+木質化)✖️α」→木造化・木質化を追求し、更なる付加価値を創出
◾️活動の主旨:木に不慣れな人・会社を、木が得意な人・会社が支援する仕組みの構築
【主なサービス内容】
◾️広報支援:コンテンツマーケティング、WEBサイト制作、コンテンツ制作等
◾️設計支援 :設計者紹介、計画・設計サポート、設計・申請補助等
◾️実務支援 :木構造支援、施工者紹介、講師等
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